バルナックライカ徹底解説!中古の見分け方から使い方まで
いま注目度がどんどん上がっている中古フィルムカメラ。
なかでももっともメジャーなのが「35mmフィルムカメラ」ですが、その元祖がどんなカメラだったか知っていますか?
世界初の(実用的な)35mmフィルムカメラ。
それがバルナックライカです。
バルナックライカとは、高級フィルムカメラとして知られている「ライカ」(Leica)のなかでも、古いタイプのカメラのことを指します。
このバルナックライカがなければ、いまと同じ形で35mmフィルムカメラが存在することはなかったでしょう。
ひいては、いまのデジタルカメラの形も大きく異なっていたかもしれません。
そう、バルナックライカはフィルムカメラの「原形」のひとつ。
ライカ用の銘レンズと組み合わせれば、レトロかつ質感あふれる魅力的な写真を撮ることができますよ。
また独特の操作方法も、ある種「儀式的」「魔術的」な満足感があるもの。
中古フィルムカメラを使うなら、ぜひ体験してみてほしいカメラです。
今回はそんなバルナックライカの種類や使い方について、中古フィルムカメラ専門店、サンライズカメラのスタッフが徹底解説します!
目次
これからバルナックライカを手に入れるときのおすすめ機種
まず最初に、これから初めてバルナックライカを手に入れるときのおすすめ機種を紹介します!
ライカIIIf
初めてのバルナックライカに最適なのがライカIIIf!
1950年代製造のため、戦前のモデルより状態が良いものが多く、戦中のモデルに比べ仕上げも良好!
安心してバルナックライカを楽しむことができますよ。
当店、サンライズカメラでもバルナックライカを多数取り揃えていますので、ぜひ公式サイトを御覧ください!
バルナックライカ
中古フィルムカメラのなかでも、常に中古で一定の人気があるバルナックライカ。
M型ライカほどの派手さはないですが、エンスー好みのフィルムカメラです。
まず、バルナックライカとはどんなフィルムカメラなのか、簡単に紹介します。
バルナックライカの魅力とは
サンライズカメラのスタッフである筆者も、実はバルナックライカをメインに撮影をしていたことがありました。
そのときに使っていたのはライカIIIb。
初めての、レンジファインダーとビューファインダーが隣接するようになったバルナックです。
実際にバルナックライカを使ってみて、筆者もその魅力に引き込まれました。
バルナックライカの最大の魅力。
それが、手のひらに収まる精密感。
単に密度の高い、精密なカメラというだけならいくらでも存在します。
バルナックライカはその密度感が段違い。
1920〜50年代の最先端の技術を詰め込んだ、まさに宝石というほかない小宇宙を、両手で操ることができるのです。
また、カメラ自体の小ささもその魅力を引き立てます。
国産一眼レフやM型ライカよりもずっと小さなボディ。
さらに、バルナックライカは35mmフィルムカメラの元祖であることも、使う悦びをかきたててくれるでしょう。
歴史上、多くの名写真家が愛用してきたバルナックライカ。
バルナックライカを使うとき、誰でも木村伊兵衛に、ブレッソンになることができるのです。
バルナックライカ=バルナックさんが作ったライカ
小型の高級カメラとして知られるライカ。
その元祖であるとともに、ライカの地位を確固たるものとしたのが、この記事で紹介するバルナックライカです。
バルナックライカとは、実は人名に由来するネーミング。
バルナックライカを開発したのは、光学技術者のオスカー・バルナック(Oskar Barnack, 1879〜1936)。
オスカー・バルナック
※ウィキメディア・コモンズよりパブリックドメイン画像を引用:引用元
オスカー・バルナックは、「映画用フィルムを写真用に転用する」というアイデアにより、小型で速射性に優れるカメラを発明。
もともとは映画用だった35mmフィルムが、このバルナックライカによって写真用フィルムのスタンダードとなったのです。
バルナックライカの先進性
さて、そんなバルナックライカは、発明・改良された1920〜30年代において非常に先進的なカメラでした。
戦前には「ライカ一台、家一軒」と言われたくらい高価だったカメラですが、当時、それくらいの最先端の工業製品だったことの現れでもあるのです。
連動距離計の搭載
初期のものや特殊モデルを除き、バルナックライカには連動距離計が搭載されています。
連動距離計とは、レンズのピントリングを回して距離計の二重像を合わせるだけでピントが合う機構。
それまでの距離計は、距離計で求めた数値をもとにレンズのピントリングの数字を合わせる作業が必要でしたが、それを自動化しました。
互換性のあるレンズ交換機能
バルナックライカは、ライカC型以降レンズ交換が可能となり、またC型の途中以降は、完全に互換性のあるレンズマウントを備えるようになりました。
バルナックライカのレンズマウントは、L39マウント(ライカマウント、ライカスクリューマウント)。
フランジバック28.6mmの、口径39mm、ネジピッチ26分の1インチという規格です。
ライカDIIのL39マウント(1930年代)
ライカIIIfのL39マウント(1950年代)
統一された規格のため各種交換レンズが完全互換で使用可能。
レンジファインダーカメラの標準マウントとして、戦後には日本のCanonやminoltaをはじめ、各種メーカーに採用されることとなりました。
Canon 7SのL39マウント(1960年代)
また、日本や旧ソ連をはじめ、各国で作られたオールドレンズが使用可能です。
引き伸ばしを前提とした小型カメラ
最後に、バルナックライカが成功した最大の理由。
それが、「拡大引き伸ばしを前提とした完全なシステム」を最初から用意していたことです。
写真の引き伸ばし
小さいフィルムで写真を撮影して、紙へのプリント時に大きく拡大焼き付けする。
今の目から見るとあまりに当たり前すぎて見過ごしがちですが、これは当時、非常な技術革新だったのです。
35mmフィルムカメラの発明以前、写真は基本的にフィルム・ガラス乾板ともに「密着焼き付け」で鑑賞するものでした。
すなわち
フィルムの大きさ=プリントの大きさ。
原寸大のプリントが普通だったのです。
しかし、バルナックライカが採用した35mmフィルムは、そのまま鑑賞するには小さすぎます。
そこでライカを販売するエルンスト・ライツ(Ernst Leitz)社は、引き伸ばし機を含むシステムを提供。
拡大引き伸ばしのプリントが行える環境を用意したのです。
また、フィルムから拡大するということは、その分レンズにも高い解像力が求められます。
バルナックライカでは、もちろんそのレンズ性能にも気を配りました。
最初期のライツ・アナスチグマートやエルマックスといったレンズは3群5枚。
有名なエルマーレンズは3群4枚と、当時としてはコストをかけたレンズ構成を標準で採用。
もともとエルンスト・ライツ社が持ち合わせていた光学技術と合わせ、大伸ばししても破綻しない描写力を実現したのです。
エルマーレンズ(50mm F3.5/画像はもっと新しいもの)
エルマーと、各種ライカレンズについては以下の記事で解説しています。
バルナックライカは世界を変えた
このように、非常に高い完成度を持ったライカは、カメラの世界を大きく変えました。
それまでカメラといえば大きく、持ち運びが不便で、速写性に劣るのが普通。
それがライカの登場により、いつでも、どこでも、どんな場面でも、写真を撮ることが可能となったのです。
バルナックライカを愛用した写真家はあまりに多すぎて列挙するのも不可能なくらいですが、最も有名なところでは「決定的瞬間」のアンリ・カルティエ・ブレッソン(Henri Cartier-Bresson, 1908〜2004)や、戦争写真で知られるロバート・キャパ(Robert Capa, 1913〜1954)などが挙げられます。
日本人ではやはりライカの名手、木村伊兵衛(きむら いへえ, 1901〜1974)が代表的存在でしょう。
コピーされたバルナックライカ
さて、そんなバルナックライカは、あまりの完成度ゆえに各国でコピー製品が大量に作られることとなります。
戦前から旧ソ連をはじめ各国がコピーを試みていましたが、本格化したのは第2次世界大戦が始まってからのこと。
ナチス・ドイツからのライカの供給が途絶えたため、軍用カメラとして各国が国を挙げてライカコピーを作り始めたのです。
この時期のカメラとしては、イギリスの「リード」(Reid)、アメリカの「カードン」(Kardon)、日本の「ニッポンカメラ」、旧ソ連の「フェド」(Fed)などが有名です。
アメリカ製ライカコピー:カードン+ミリタリーエクター47mm
さらに第2次世界大戦が集結すると、ドイツの敗戦によりライカ関係の各種特許が無効となり、各国は大手を振るってコピーライカを製造することができるようになります。
【2022年8月追記】
「ライカの特許が無効となった」という言説については、誤りである可能性が高いようです。
各国でライカ同様のカメラを作ることができるようになったのは、単にライカの特許やパテントの期限が切れたことが要因であると指摘されています[1]「M3神話解体試論 (2018.1.3版) – 光画図書室閉架書庫」(2022年8月25日閲覧)。
ここでライカコピーを作り始めたのが戦後の日本。
外貨獲得手段として、輸出向けの精密工学機器を安価に大量生産するようになったのです。
バルナックライカのコピーとしては、ニッカ(Nicca)やレオタックス(Leotax)、タナック(Tanack)やメルコン(Melcon)などが知られています。
国産ライカコピー:レオタックス(K型)
国産ライカコピー:ニッカ(3S)
またキヤノンやニコンのレンジファインダーカメラも内部機構はバルナックライカの影響が非常に色濃く、日本製35mmフィルムカメラはバルナックライカの子孫だと言っても過言ではないのです。
また旧ソ連でも、バルナックライカの完全なデッドコピーとして上記のフェドやゾルキー(Zorki)が作られ、こちらも独自の進歩をしていくこととなります。
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バルナックライカの見分け方
バルナックライカの代表的な機種を紹介する前に、バルナックライカの型番(機種名)の付け方について解説します。
バルナックライカには、IIIa、IIIc、IIIf、IIc、Ifなど、ローマ数字とアルファベットを組み合わせた機種名がついていますが、いったいどんな基準があるのでしょうか。
ローマ数字は「機能」を表す
バルナックライカの機種名は、IIIaやIIc、Igといったように、ローマ数字のあとにアルファベットが付く形で表されます。
ローマ数字が表すのは、「カメラの機能」です。
バルナックライカの機種名のローマ数字は、III(3)、II(2)、I(1)の3種類があり、数字が大きい方が高機能です。
具体的には、
III:スローシャッターあり・レンジファインダーあり
II:スローシャッターなし・レンジファインダーあり
I:スローシャッターなし・レンジファインダーなし
となります。
ライカIIIf:レンズマウント脇にスローシャッターがついている
ライカDII:上記のIIIfと異なり、こちらにはスローシャッターがない
また、シャッターの最高速も、IIfとIfの途中まで、下位モデルは1/500秒(上位機種は1/1000秒)に留められました。
これは、そもそもスローシャッターもレンジファインダーもないライカI型が最初に作られ、レンジファインダーが搭載されてライカIIに、そこからスローシャッターも追加されてライカIIIとなったことに由来しています。
ただし、これから中古でバルナックライカを手に入れるとすると、ほとんどの場合、レンジファインダーとスローシャッターの付いたモデルになると思われます。
製造数も多く、中古市場で販売されているのも、ほとんどが同様のモデルとなります。
とくにレンジファインダーのないIcやIfなどのモデルは、マニア向けのカメラとしての色が濃いです。
バルナックライカは純正改造でアップグレードできた
実はライカを製造していたエルンスト・ライツ社では、ライカの純正アップグレード改造を受け付けていました。
具体的には、ライカIcやIfをIIc、IIfというようにファインダーを取り付ける。
また、IIcやIIfといったモデルにセルフタイマーを取り付けてIIIcやIIIf相当とする。
さらに、バルナックライカはIIIfでフラッシュ用のシンクロ接点が追加されましたが、それ以前のバルナックライカにシンクロ接点を後付する改造も行われました。
ただし、基本的にはそのようなボディはマニア向けのコレクターズアイテムの色が濃いといえるでしょう。
アルファベットは発売順を示す
ローマ数字のあとに付くa、b、c、f、gというアルファベットは、基本的には発売順を表します。
機能が改良されるたびにモデルチェンジとしてアルファベットが進んでいく形です。
ただし、IIIdはとても希少なコレクターズアイテム中のコレクターズアイテム。
またIIIeというモデルは存在しません。
アルファベットのないモデルは、IIIaよりも前のモデルとなります。
[leicab]
バルナックライカ各機種紹介
それではここから、具体的にバルナックライカの各機種について紹介していきます。
バルナックライカの歴史は35mmフィルムカメラの歴史そのもの。
中古でバルナックライカを手に入れて使うのは、カメラの歴史を体験することそのものです。
ぜひ参考に、あなたにぴったりのバルナックライカを手に入れてくださいね!
ウル・ライカ(1914年)
Ur Leica(ウル・ライカ/ウア・ライカ)は、バルナックライカの生みの親、オスカー・バルナックが最初に作った35mmフィルムカメラ。
映画用の35mmフィルムから2フレーム分を使うというアイデアは、このカメラからはじまりました。
開発意図としては、映画用フィルムの感度検査用とも、オスカー・バルナック自身が病弱だったことから、軽く小型で持ち歩きやすい写真機材が欲しかったからとも言われています。
フィルムの装填・取り出しは全暗で行う必要がありました。
3台が作られ2台しか現存しない、国宝級のカメラです。
ライカ0型/ヌル・ライカ(1923年)
ライカ0はNull Leica(ヌル・ライカ)とも呼ばれ、バルナックライカのプロトタイプとも呼べるカメラです。
基本的にはコレクターズアイテム中のコレクターズアイテムで、(ネットオークションではない)オークションで数億円単位の値段がつくたぐいのアイテムです。
なお、2001年からライカ社による復刻版も4000台限定で発売されました。
機構的にはまだまだ未完成で、巻き上げ時には感光を防ぐためにレンズキャップの装着が必須になっています。
ただし、フィルムマガジンを使うことで、これ以降、暗室といった全暗でなくてもフィルム交換が可能となりました。
ライカI(A)
ライカI(A)は、初めての市販されたライカ。
レンズはまだ交換できず固定式。
主にレンズの違いにより数種類が存在します。
数百万円はするモデルです。
以下のようなものが代表的です。
ライツ・アナスチグマート(Leitz Anastigmat )付き:1923年・初期の150台程度
エルマックス(Elmax)付き:上記と同レンズで名称が異なる。1,500台ほど存在
旧エルマー(Elmar)付き:1926年・シリアル10,000以前
近接エルマー(Elmar)付き:1927年・通常のエルマーは最短撮影距離1mだが、1.5フィートまで寄れる
新エルマー(Elmar)付き:1928年・旧エルマーとは硝材が異なる
ヘクトール(Hektor)付き:1930年・製造数1,000台以下、非常に希少
まだスローシャッターもレンジファインダーも存在しません。
基本的にはこちらも、完全にマニア・コレクター向けのモデルです。
シャッター最高速は1/500秒。
ライカI(B)(1926年)
ライカI(B)は、ライカA型の欠点である「スローシャッターがない」という問題を解決するために、デッケル社のコンパーシャッターを装備したモデル。
すなわち、他のバルナックライカが全てフォーカルプレーンシャッターなのに対し、このライカB型はレンズシャッターです。
ピントを合わせるとシャッターごと回転することで知られています。
旧コンパー(ダイヤルセット式)付きと新コンパー(リムセット式)付きに大別できます。
またA型同様近接エルマー付きが存在します。
製造数はすべて合わせて1,500台程度で、いうまでもなくこちらもマニア向けアイテムです。
ライカI(C)(1930年)
レンズ交換が可能となった初めてのライカ。
このライカI(C)が元となり、L39スクリューマウントの規格が誕生しました。
ただし、最初はカメラとレンズのフランジバックにばらつきがあり、カメラとレンズごとに個別の調整が必要でした。
1931年、C型の製造途中でフランジバックの規格が完全に統一され、どのカメラやレンズでも相互に交換・装着が可能となりました。
マウントが統一規格となった個体には、マウントに「0」の刻印が施されており、これは後年のバルナックライカまで受け継がれています。
シャッター最高速は1/500秒。
ライカII(ライカDII)(1932年)
レンジファインダー(連動距離計)を搭載したはじめてのライカ。
レンズ交換が可能な連動距離計付きカメラ、という35mmフィルムカメラの基本が、このライカDIIで確立されました。
日本国内ではライカDIIと呼称されることも多いですが、ドイツでの公式呼称はライカIIです。
これは上記のライカA〜Cが、本来、「ライカI型」のAタイプ〜Cタイプだったため、日本ではそれに続くD型と呼ぶようになったことに由来しています。
シャッター最高速1/500秒。
ライカスタンダード/ライカE型(1932年)
上記のライカDIIからレンジファインダーを省略したモデルです。
シャッター最高速は1/500秒。
ライカIII(ライカDIII)(1933年)
上記のライカDIIにスローシャッターを搭載したモデル。
このライカDIIIでバルナックライカの形は完成したといえるでしょう。
シャッター最高速が1/500秒と、後の機種の1/1000秒に比べて一段遅いこと以外は、ほぼ同じ機能を備えています。
DIIとの違いは他に、ストラップアイレットの追加(それまではストラップ金具がなく、革ケースに入れることを前提としていた)、ファインダーの視度調整が可能となったことなどが挙げられます。
ライカIIIa(1935年)
シャッター最高速が1/1000秒となったモデルです。
中古でバルナックライカを手に入れる場合、価格がこなれており、機能的にも完成しているこのIIIa以降のモデルから選ぶのがおすすめ。
バリエーションも存在し、第2次世界大戦中にドイツ海軍へ供給された、鉤十字・鷲のマークが刻印されたモデルが有名です。
また戦後の1949年から1951年にかけては、フランス占領下の、ドイツ・モンテザールで、フランス国内でのカメラへの関税を避けるために組立が行われ、ライカIIIaモンテザールとして珍重されています。
ライカIIIb(1938年)
IIIa以前の連動距離計付きバルナックライカは、距離計窓とフレーミング窓の間が広く開いていたのですが、このIIIbではフレーミング用窓の光路をプリズムで曲げることにより、両者を隣接させることを実現しています。
ファインダー構造自体が異なり、このIIIbでは既にファインダーブロックはダイキャスト製になっています。
このファインダー構造はそれ以降のバルナックライカにも受け継がれます。
このライカIIIbまでと、次機種のIIIc以降ではボディの構造が大きく異なっており、IIIb以前は「板金」ライカと呼ばれています。
ライカIIIc(1940年)
機能的にはライカIIIbとほぼ同様ですが、カメラボディが堅牢かつ加工性の高いダイキャスト製となりました。
それに伴い、本体のサイズが一回り大きくなっています。
ちょうど第2次世界大戦期に相当する期間に製造されたモデルのため、ドイツ軍に供給されたモデルなど、中古ではマニア人気の高いコレクターズアイテムが相当数存在します。
いっぽうで戦後すぐに製造されたモデルには、メッキの品質が非常に悪く著しく劣化している個体なども存在するため、構造上の完成度は高いものの、中古カメラとしてはピンキリなモデルであるといえるでしょう。
とくに戦後、1947年頃から製造されたモデルは貼り革(グッタペルカ)の模様が異なり、「シャークスキン」と呼ばれています。
レンジファンダーやスローを省いた、IcやIIcといった派生モデルが存在します。
ライカIIId(1940年)
ライカIIIcにセルフタイマーを装備した希少モデル。
400台あまりしか存在しないとされています。
そもそもIIIcは当初セルフタイマーを装備する予定だったのですが、国際情勢の変化により搭載が見送られたという経緯がありました。
ライカIIIf(1950年)
フラッシュ用のシンクロ機能を追加したモデルです。
機種名はeを飛ばして、フラッシュ付きであることからfとなりました。
当時はまだカメラ用フラッシュに統一規格がなく、手動で各フラッシュ・ストロボごとに設定された「コンタクトナンバー」を選ぶ形式となりました。
シャッターダイヤル基部にコンタクトナンバーを選ぶダイヤルが追加されている
コンタクトナンバーの違いで、「ブラックダイヤル」(ブラックシンクロ)と「レッドダイヤル」(レッドシンクロ)に二分されます。
また1954年からはセルフタイマーが装備され、バルナックライカは機構面においてはほぼ完成の域に達しました。
個体ごとに状態のばらつきが大きいIIIcと異なり、このIIIfは品質が安定している時期の製品かつ、機構的にも完成しているので、これからバルナックライカを中古で手に入れるならもっともおすすめの機種だといえるでしょう。
派生モデルとしてIfとIIfが存在します。
ライカIIIg(1957年)
1954年、フルモデルチェンジを行ったライカM3が発売され、バルナックライカはその歴史の幕を閉じたかに見えました。
ところがユーザーからは、使い慣れたバルナックライカの改良を望む声が続出。
その声に応えてバルナックライカを更に改良したのがIIIgです。
具体的にはM3同様に、パララックス自動補正式のブライトフレーム付きファインダーを搭載。
いっぽうで連動距離計はそれまで同様、フレーミング用のファインダーとは別窓となっています。
ファインダーが大型化したことで、見た目もそれまでのバルナックライカとは大きく変化しています。
またM型ライカ同様、シャッター速度が倍数系列になっています。
変わり種バルナックライカであると同時に機構の完成度も高いため、中古でも人気が高いモデル。
通好みのバルナックライカだといえるでしょう。
派生モデルとしてIIgとIgが存在(IIgは実在はするが販売されたか不明)。
Igについては、それまでのIcやIfの上面がフラットだったのに対して、軍艦部がファインダーを除いた分も出っ張っている独特の形態となっています。
[leicab]
バルナックライカ 中古購入のポイント
さて、それではバルナックライカをこれから中古で購入するなら、いったいどんなことに気をつけたらよいのでしょうか?
他のフィルムカメラを中古で買うときと同様の点ももちろん注意が必要ですが、クラシックカメラとしての色が濃いバルナックライカには、独自のチェックポイントも存在します。
シャッター幕の劣化・穴
バルナックライカは基本的に、横走り布幕フォーカルプレーンシャッターを搭載しています。
古い時代のカメラのため、幕が劣化している個体も多く存在します。
状態チェック時には幕の状態チェックを念入りに行いましょう。
幕交換は基本的にオーバーホール相当の代金が必要になってしまいます。
また、レンジファインダーカメラに共通することですが、太陽光で幕を焼いてできたようなピンホールにも気をつけましょう。
スローの状態
他の機械式フィルムカメラにも共通しますが、スローシャッターが切れているか、粘っていないかをチェックしましょう。
スプール欠品はNG
バルナックライカのスプール
古い時代の35mmフィルムカメラには、このバルナックライカを含め、フィルムの巻き上げ軸(スプール)が取り外し式のものが存在します。
バルナックライカも基本的にスプールが取り外し式です。
このスプールが欠品していると当然ですがフィルムを装填できないので、スプール欠品のものは避けましょう。
中古でスプールだけ購入しようとすると、フィルムカメラのアクセサリーにありがちなことですが、とても割高になってしまうことが多いです。
おすすめのバルナックライカはどの機種?
では、具体的にこれから中古でバルナックライカを購入するとしたら、どの機種がよいといえるのでしょうか?
イチオシはIIIf
機種紹介でも書きましたが、これからバルナックライカを手に入れるなら、IIIfがもっともおすすめできるといえるでしょう。
理由はなんといってもその完成度。
機構的に完成の域に達しているだけでなく、1950年代という製造年代もあり、加工精度もとてもよいです。
フラッシュを使うことはほとんど考えられないでしょうが、状態のばらつきが大きいIIIcよりも、IIIfのほうが良好な状態で末永く使える可能性が高いのではないでしょうか。
少し高めで良いならIIIgも狙い目
伝統的なバルナックライカのスタイルとは異なりますが、通好みなフィルムカメラが欲しいならIIIgもおすすめです。
時代が新しいので機構的にも信頼できますよ。
ただし値段は少し高めです。
予算を抑えるならIIIa〜IIIc
いっぽう、安価にバルナックライカが欲しいなら、IIIa〜IIIcも狙い目。
バルナックライカはM型ライカに比べ中古価格もこなれてきているので、本物の「ライカ」を手軽な値段で始めることができますよ。
ただし、DIII以前の機種は流石に古すぎるので、これからバルナックライカを初めて手にする方には不向きかもしれません。
片流れと角窓
IIIaやIIIbには、ファインダー窓の形に「片流れ」と「角窓」という二種類が存在します(DIII・DIIも同様)。
IIIaの前期とIIIbのごく一部が片流れ。
分かる人には分かるこだわりポイントなので、片流れのライカを使っていると、中古カメラファンの注目を浴びること間違いありません!
上記画像はライカDIIですが、ファインダー窓(中央)が「片流れ」になっています。
2024年最新!おすすめミラーレス一眼カメラベスト3!!
オールドレンズを楽しむのにも最適!写真にも動画にもおすすめのフルサイズミラーレス一眼カメラを選ぶならこのカメラ!!
写真・動画どちらもハイクオリティ。一度は手にしたい逸品!
FM2発売当時のマニュアルレンズにインスパイアされたデザイン!
どこでも持ち歩ける相棒です。
バルナックライカの使い方
最後に、バルナックライカの使い方について紹介します。
35mmフィルムカメラのなかでの初期の機種だけあり、使い方が独特なバルナックライカ。
フィルム装填の方法やシャッター速度の変更など、覚えておきたいポイントを解説します。
1:フィルム装填
バルナックライカを使う上での第一関門、フィルム装填。
ですが慣れてしまえばとくにどうということはありません。
底蓋を外す
バルナックライカは、他の35mmフィルムカメラのように「裏蓋」は開かず、「底蓋」を外してフィルム装填を行います。
底蓋を外すには、底蓋の開閉ノブを起こして半回転させます。
すると底蓋を外すことができます。
底蓋を開けたら、スプール(フィルム巻き上げ軸)を引っ張って取り出します。
このスプールに、フィルムの先端を挿入して、再びカメラの内部に戻すこととなります。
装填方法1:フィルムをカットする
底蓋からフィルムを入れるときに、そのまま入れてしまうと、内部でフィルムが引っかかってしまいます。
そのために、フィルムが引っかからないようにする工夫が必要です。
まず、公式に推奨されているのが、フィルムをカットするという方法。
実は、裏蓋の内側にもフィルムのカット方法が印刷されています。
具体的には、フィルムの先端部分を長めにハサミで切り取ります。
そうしたら、フィルム先端をスプールに挿入。
あとはカメラ内部に入れて、裏蓋を閉じるだけです。
メーカー推奨の方法のためトラブルも少なく安全に使えますが、あらかじめハサミでカットする手間がかかるのが難点です。
動画でも解説していますので、参考にしてくださいね。
装填方法2:テレホンカード・ポイントカードを使う【非推奨・緊急用】
フィルムをカットする手間を省くことができるのが、テレホンカードのような薄いカードを使う方法。
こちらは以前から書籍などでも紹介されてきた方法ですが、装填に失敗すると故障を招くので、基本的にはあまりおすすめできません。
(フィルムが内部で引っかかって、切れ端が機構に噛み込む、などのトラブルを招きます)
あくまで非常用と考えましょう。
具体的な方法としては、まず、薄いカードをフィルム装填部分に差し込みます。
そうしたら、先端をスプールに入れたフィルムを、カードの後ろ側(カードとカメラ背面側の隙間)に入れていきます。
こうすることで、内部の引っかかる部分がカードで隠れるため、フィルムをカットしなくても問題なく装填することができるのです。
これは愛好家が始めた方法で公式には認められていません。
広く行われてはいますが、ベストな方法ではないことを再度書き添えておきます。
こちらの方法も動画で解説しています。
どちらの装填方法を使った場合でも、装填が終わったら巻き上げて空シャッターを切ります(2回程度)。
フィルムはノブで巻き上げます。
空シャッターを切ったら、フィルムカウンターを回して、手動で0に合わせます。
2:シャッター速度の合わせ方
バルナックライカのシャッター速度で独特なのが、シャッター速度の合わせ方です。
バルナックライカのシャッターは「二軸回転式シャッター」というもの。
古めの時代の形式です。
最大の特徴が、高速側のシャッターと低速側のシャッターで設定ダイヤルが別れているということです。
※下記の参考画像ではレンズが引き出されていませんが、実際の撮影時にはレンズを引き出してから設定・撮影します。
高速シャッターを合わせる
1/20秒または1/30秒より高速のシャッターを切る場合には、ボディ上面のダイヤルで設定します。
高速側シャッター速度は、巻き上げを行ってから合わせます。
巻き上げの際とシャッターを切った際にダイヤルが回転するので、(物理的には回しても壊れませんが)、巻き上げ前に合わせようとしても、どの速度に合わさっているのかわかりません。
ダイヤルはそのままでは回らないので、少し持ち上げて回します。
手を離すと元のように下がってロックされます。
低速シャッターを合わせる
低速シャッターを使うときには、まず高速シャッターのダイヤルを20-1、25-1、または30-1と書いてある部分に合わせます。
そうしたら、ボディ前面にあるスロー用のダイヤルを回して速度を合わせます。
これで低速シャッターを使うことが可能です。
スローシャッターを使用したあとは、1/25秒などスローシャッターのうちもっとも最高速に戻しておきましょう。
注意点:バルナックライカはシャッター速度の数値が異なる
現代のカメラに慣れている方にとってわかりにくいのが、シャッター速度の数字が微妙に異なるということ。
現代のカメラは基本的に、1/1000秒・1/500秒・1/250秒・1/125秒・1/60秒・1/30秒……というようにシャッター速度が2倍ずつ増減する「倍数系列」となっています。
倍数系列のシャッターダイヤルの例(ライカM3)
それに対して、バルナックライカでは、「大陸系列」という、数字のきりの良さを重視した数値が使われています。
(さらに機種により微妙にその数字も異なります)
頻繁に使うシャッター速度でいうと、
1/1000秒・1/500秒・1/200秒・1/100秒……というような並び方になっています。
バルナックライカの、大陸系列のシャッターダイヤル
このシャター速度の違いにどのように対応するか、という問題ですが……。
基本的に、近似値のシャッター速度を用いれば問題ありません。
筆者がバルナックライカを使うときには、1/200秒は1/250秒相当、1/100秒は1/125秒相当として撮影してしまっています。
もちろん厳密には1/3段程度ずれるわけですが、勘露出で撮る分には誤差の範疇に過ぎません。
露出計を使う場合でも、古いカメラのため、そこまで厳密なシャッター速度の精度が出ているかは不明なところ。
ある程度の目安で決めてしまってよいでしょう。
3:絞りを合わせる
バルナックライカはレンズ交換式カメラのため、レンズによって方法は異なりますが、レンズの絞りを回して絞り値を設定します。
4:距離(ピント)を合わせる
レンジファインダーで被写体との距離を合わせます。
バルナックライカの距離計は連動距離計なので、レンズのピントリングを回して二重像を合わせるだけでピントが合った状態となります。
ピントを合わせるときは、2つあるファインダー窓のうち左側を覗きます。
ファインダーを覗くと像が二重になっています。
レンズのピントリングを回すと二重になっている像が動きます。
2つの像が完全に重なる(一致する)と、ピントが合った状態になります。
ファインダーを覗いたときの見え方は、以下の動画も参考にしてみてください。
5:フレーミング
距離を合わせたら、撮影時のフレーミングを行います。
フレーミングは右側のファインダー窓で行います。
バルナックライカのファインダーは、後年のレンジファインダーカメラに比べるとかなりおおざっぱなもの。
バルナックライカのビューファインダー
内蔵ファインダーは50mmレンズ用で、他の焦点距離のレンズを使うときには外付けファインダーを取り付けることとなります。
6:シャッターを切る
シャッターは、ボディ上面のシャッターボタンを押して切ります。
シャッターを切ったらフィルムをノブで巻き上げます。
7:巻き戻す
36枚もしくは24枚、撮影が終わると巻き上げが固くなり、それ以上巻き上げられなくなります。
(無理やり巻き上げるとフィルムが千切れてしまうので気をつけましょう)
フィルムを1本撮りきった状態なので、巻き戻しを行います。
フィルムを巻き戻すときには、シャターボタンの前にあるレバーを「R」に合わせます。
これで内部のギアがフリーになり、巻き戻しが可能となります。
巻き戻しは、巻き上げと反対側にあるノブで行います。
巻き戻しノブが軽くなるまで回し、軽くなった後も念のため数回転させておきます。
これで巻き戻し完了です。
巻き戻しが終わったら、レバーを「R」から元の状態に戻しておきます。
フィルム装填時と同じように裏蓋を開けて、フィルムを取り出します。
これで撮影は完了です。
巻き戻し方法は以下の動画でも解説しています。
撮影時のTips
撮影時に気をつけたいいくつかの点を解説します。
沈胴レンズの引き出し方
バルナックライカでよく使われるのが、エルマー(Elmar)をはじめとする沈胴レンズ。
沈胴レンズは、引き出して撮影状態にする操作が必要です。
エルマーの場合、レンズをまずはまっすぐ引き出します。
レンズがそれ以上引き出せなくなったら、止まるまで右に回します。
これでレンズがロックされ、撮影可能な状態になりました。
逆に、撮影が終わったらレンズを左に止まるまで回し、押し込むことで収納可能です。
レンズの交換方法
バルナックライカのL39マウントは、単純なネジマウントです。
レンズマウント自体がねじになっているので、レンズを反時計回りに回すと外れます。
反対に、装着時には時計回りに回して取り付けることとなります。
持ち運び時は必ずレンズキャップを装着しよう
バルナックライカに限りませんが、レンジファインダーカメラを撮影せずに持ち運ぶときには、レンズキャップを必ず付けるようにしましょう。
理由はレンズ保護だけではありません。
レンジファインダーカメラはシャッター幕の前に保護するものがなにもありません。
そのため、レンズに太陽が写り込むような状態で放置すると、太陽光がシャッター幕に焦点を結んでしまい、シャッター幕を焼いて穴が空いてしまうのです。
(虫眼鏡で紙が燃えるのと同じ原理です)
シャッター幕に穴が開くと撮影不可能になる上、多額のオーバーホール費用が必要になるので、レンズキャップを必ず装着するよう心がけましょう。
露出の合わせ方
バルナックライカには露出計はありません。
そのため、シャッター速度と絞りは単体露出計を使うか、勘で合わせることとなります。
単体露出計のおすすめは、Voigtlander VCメーターやSekonic ツインメイトL-208といった、アクセサリーシューに取り付けられるタイプ。
2020年代になってから登場した、中国製の露出計もおすすめです。
また、最近ではスマホアプリにも高精度な露出計が存在するのでそちらを使うのもよいでしょう。
単体露出計やスマホアプリを使っているうちに、光線状態と露出値の関係がわかってくるので、昼間くらいならすぐに勘で露出がわかるようになっていきますよ。
露出計については、以下の記事もご覧ください。
[leicab]
バルナックライカ 作例
それではバルナックライカではどんな写真が撮れるのでしょうか?
実際にフィルムで撮影した作例を紹介します!
使用レンズはすべてElmar 5cm F3.5です。
モノクロネガの作例
撮影:雨樹一期
使用フィルム:KOSMO FOTO
こちらの記事でさらに作例を紹介しています。
カラーネガの作例
撮影:サンライズカメラ スタッフ
使用フィルム:FUJIFILM 業務用100
※業務用100は製造終了のため、こちらのフィルムが同等品です。
L39マウントオールドレンズで叙情的に景色を切り取るならバルナックライカが最適。
ぜひあなたもバルナックライカを相棒にしてみませんか?
バルナックライカでフィルムカメラの歴史を味わいませんか?
いまなら中古価格もこなれているバルナックライカ。
「本物」のライカをリーズナブルに楽しめる、フィルムカメラの中でもおすすめの選択肢です。
操作方法も覚えれば簡単。
むしろ独特な操作が、使っていくうちにむしろ心地の良い「儀式」になっていくかも?
作りの良さと歴史を感じるバルナックライカ。
中古カメラを楽しむなら、ぜひ手にしてみたい、歴史に残る存在です。
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FM2発売当時のマニュアルレンズにインスパイアされたデザイン!
どこでも持ち歩ける相棒です。
更新履歴
2022年8月26日
「ドイツのパテントが切れた」という言説について修正
A型、B型等の表記をI(A)、I(B)に修正
Hektorの誤記(Hector)を修正
使い方の解説画像を軽量化
脚注
↑1 | 「M3神話解体試論 (2018.1.3版) – 光画図書室閉架書庫」(2022年8月25日閲覧) |
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