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オールドレンズ入門に最適な旧ソ連製レンズ「ジュピター」(Jupiter)まとめ

Jupiter-8 5cm F2 1955年

ミラーレス一眼カメラでオールドレンズのなかでも人気の、手頃な値段で切れ味鋭い描写が楽しめる旧ソ連製レンズ

旧ソ連製のレンズのなかでも、とくにおすすめなのが「ジュピター」(Jupiter)シリーズです。

カール・ツァイスコピーの「ジュピター8 50mm F2」や、対称型広角レンズとしては最も安価に購入できる部類である「ジュピター12 35mm F2.8」をはじめ、廉価で個性的な銘玉がいっぱい。
日本製以外のオールドレンズを初めて手に入れようと思ったときに最適な選択肢だといえるでしょう。

今回は、中古フィルムカメラ専門店、サンライズカメラのスタッフが、旧ソ連で作られたオールドレンズの定番・ジュピター一族について解説しようと思います。

ぜひあなたもジュピターでオールドレンズの世界に踏み入れてみませんか?

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旧ソ連製製オールドレンズの定番・ジュピター

L39マウント(ライカスクリューマウント)やM42スクリューマウントの旧ソ連製製レンズとしてとても中古で人気が高い、ジュピター(Jupiter)と名付けられたレンズたち。

いったいどのような種類があるのでしょうか?
まず、ジュピターシリーズのなかでも定番のレンズについて紹介します。

Jupiter-8 5cm F2(ジュピター8 5cm F2)

白鏡筒 指掛け付き Jupiter-8
白鏡筒の前期型

Jupiter-8 5cm F2 黒鏡筒
黒鏡筒の後期型

マウント L39マウント(ライカスクリューマウント)
キエフ(コンタックスマウント)
レンズ構成 3群6枚(ゾナータイプ)
製造工場 KMZ、LZOS等
備考 カール・ツァイス ゾナーのコピー

ジュピター8(Jupiter-8)50mm F2は、旧ソ連で作られたジュピター一族の中でももっとも人気が高く、大量に製造されたため中古でも手に入れやすいレンズ。

このレンズの最大の特徴。
それが、戦前にカール・ツァイスがコンタックス(レンジファインダーカメラのContax)用に開発したゾナー(Sonnar)5cm F2の完全コピー製品だということです。

完全コピーである理由は、第二次世界大戦でドイツを占領した旧ソ連が、カール・ツァイスの技術者をそのまま自国へ製造設備ごと連行し、製造し始めたことがルーツであるためです。
初期のジュピターの中身は完全にツァイスのゾナーなのです。

ジュピター8は、1970年代を境に鏡筒のデザインが大きく変更されており、それ以前は軽合金の銀色鏡筒、以降は黒鏡筒となっています。

また前期型の初期のものは、ピントリングに指掛けがついています。

ジュピター8 白

Jupiter-8 5cm F2 黒

ジュピター8のレンズマウント

Jupiter-8 黒 L39マウント
L39マウント(ライカスクリューマウント)のジュピター8

ジュピター8には、L39マウントのものと、キエフ(コンタックス)マウントのものがあります。
そもそも、このジュピター8は旧ソ連がコンタックス(Contax)をコピーしたキエフ(Kiev)というレンジファインダーカメラのために製造し始めたものなので、キエフ用が源流。
途中、1950年代なかばから、レンズエレメントの構成は同一のまま、ライカLマウントのレンジファインダーカメラで、旧ソ連では上級機であったゾルキー(Zorki)シリーズ用にコンバートされ製造されるようになりました。

マウントアダプターでジュピター8を使う場合、基本的にはライカLマウントのもののほうがおすすめです。
ライカLマウントのマウントアダプターは廉価なうえ、いくものメーカーから選ぶことが可能。
また、レンジファインダーのフィルムカメラで撮影してみたいと思ったときにも流用が容易です。

いっぽう、キエフ(コンタックス)マウント用のマウントアダプターは、精度の高い、厳密な品質管理のもとで製造されたものは高価です。オークションサイトなどではおそらくキエフのカメラボディからパーツを流用して製造したと思しきマウントアダプターが出回っていますが、出所不明の製品で、正直なところあまりおすすめできません。
ただし、キエフ用は上記の理由から非常に安い値段で中古を手に入れることが可能です。

キエフについて詳しくはこちら

※記事後半で紹介しています。

Contax (コンタックス)I・II・III/旧コンタックス Contaxレンジファインダーカメラ徹底解説 Contax I・II・IIIとは?

ジュピター8 作例・関連記事

ツァイスの血筋を受け継いだジュピター8。
開いてよし。
絞ってよし。
値段からは想像のつかないくらいの、非常に上質な描写をみせてくれますよ。

Jupiter-8作例

Jupiter-8作例

Jupiter-8作例

撮影:雨樹一期

こちらの記事でさらに作例を紹介しています。

【オールドレンズ探訪記】Jupiter-8 5cm F2 1955年製の実力とは!?(作例・撮影Tipsあり)

Jupiter-3 5cm F1.5(ジュピター3 5cm F1.5)

Jupiter-3 5cm F1.5(ジュピター3 5cm F1.5)

マウント L39マウント(ライカスクリューマウント)
キエフ(コンタックスマウント)
レンズ構成 3群7枚(ゾナータイプ)
製造工場 KMZ、ZOMZ等
備考 カール・ツァイス ゾナーのコピー

ジュピター3(Jupiter-3)50mm F1.5は、こちらもカール・ツァイスのゾナー(Sonnar)5cm F1.5をコピーして製造されたレンズ

ジュピター8同様、キエフ(コンタックス)マウントとライカL39マウントがありますが、どちらもジュピター8よりも見かけない印象。
中古の値段も、開放値が約1段明るいハイスピードレンズであることもあって、ジュピター8の倍額程度はしています。

Jupiter-3 5cm F1.5(ジュピター3 5cm F1.5)

このレンズの元となった戦前のコンタックス ゾナー5cm F1.5は、1930年代当時、世界でも随一の開放値が明るいハイスピードレンズとして孤高の存在でした。
そんな伝説の銘玉中の銘玉も、戦後に旧ソ連にてコピーされ、いまとなってはとても安価。

当然ながらドイツ製の本物の「ゾナー」よりもずっと安価なので、気軽に戦前の高性能レンズを試すことができますよ。

対応するマウントアダプター

マウントアダプターで使用する場合、L39マウント版を購入し使用するのがおすすめです。

Jupiter-9 85mm F2(ジュピター9 85mm F2)

Jupiter-9(L39)
画像はL39マウント版

マウント ライカLマウント
キエフ(コンタックスマウント)
ZENIT用M39スクリューマウント
M42スクリューマウント等
レンズ構成 3群7枚(ゾナータイプ)
製造工場 LZOS等
備考 カール・ツァイス ゾナーのコピー

人物を撮るためのポートレートレンズとして、オールドレンズのなかでも随一の描写力を誇る銘玉です。

ジュピター9(Jupiter-9)85mm F2
こちらもご多分に漏れず、カール・ツァイスのゾナー8.5cm F2のコピー
レンズ構成もカール・ツァイスのものを受け継いでいるようです。

焦点距離85mmのポートレートレンズといえば、人物撮影の花形としてどのメーカーも高値で取引されているもの。

Jupiter-9 85mm F2

状態があまり良くなくても中古で数万円してしまうことが普通ですが、オールドレンズであるこのジュピター9なら、状態良好な品が2万円台~というとてもリーズナブルな金額で入手可能。

描写も上質。
人物を撮ればピントのあった箇所はくっきりと、そして何より、人物の魅力をはっきりと際立たせる至高のボケ。

元々の設計が戦前に遡ることを忘れてしまうような、味わい深く人の心を揺り動かすような美しさを、存分に味わうことができるでしょう。

Jupiter-9のレンズマウント

さて、そんなジュピター9もまた、他のジュピターレンズ同様、そもそもはコンタックスコピーのキエフ用に製造が始まり、ライカLマウントにコンバートされました。

焦点距離50mm近辺のレンズと異なるのが、一眼レフカメラ用のレンズにも採用されたこと。
中望遠レンズで後玉の位置がフィルム面から離れていたため、そのままの設計でフランジバックの長い一眼レフ用の鏡筒に収めることができたのです。

一眼レフ用のマウントには、旧ソ連で作られた一眼レフカメラ「ZENIT」のうち初期のもので用いられたM39スクリューマウント用と、一般的なM42スクリューマウント用が存在。
これから購入する場合、上記のマウントのものの中でも、M42スクリューマウントのものがおすすめだといえるでしょう。

全体の製造数もM42スクリューマウントのものが多かったようで、中古市場でもM42のものが大半な印象です。

M42マウントのジュピター9絞りが自動絞りではない(一眼レフカメラでの撮影時に絞りが自動で絞り込まれない)ために、かつては不便な印象がありました。
しかし、現代のミラーレス一眼カメラでマウントアダプターで使用する場合には、その設計がむしろメリットとなります(ミラーレス一眼カメラでは実絞りで使用するため)。

ジュピター9は、まさにミラーレス一眼カメラと相性抜群の中望遠オールドレンズだといえるでしょう。

対応するマウントアダプター

また、L39マウント版はこちらが対応します。

オールドレンズならサンライズカメラ
オールドレンズならサンライズカメラ

Jupiter-9 作例・関連記事

Jupiter-9作例

こちらの記事で作例を紹介しています。

【オールドレンズ探訪記】MC Jupiter-9 85mm F2(Jupiter-9)は好みが分かれそうな癖の強さのあるレンズ (作例・撮影Tipsあり)

Jupiter-12 35mm F2.8(ジュピター12 35mm F2.8)

JUPITER-12(ジュピター12) 35mm F2.8 ブラック
↑画像はL39マウント版

マウント L39マウント(ライカスクリューマウント)
キエフ(コンタックスマウント)
レンズ構成 4群6枚
製造工場 KMZ、LZOS等
備考 後玉が大きく張り出す対称型広角レンズ

ジュピター12(Juputer-12)35mm F2.8は、ライカL39マウントの廉価な広角レンズとして人気の高い逸品。

最大の特徴が、「対称型広角レンズ」であるということです。

対称型広角レンズとは、レンズの断面図を見たときに前側と後側が対称型になっている構成のレンズのこと。
構造上、レンズの後玉がカメラボディ内部、レンズマウントよりも後側に張り出すため、フィルムカメラの時代に、レンジファインダーカメラ用にしか作ることができないレンズでした。
(ミラーアップして使用する一眼レフ用レンズを除く)

さて、そんな対称型レンズ自体はライカL39マウントに多く存在しています。

このジュピター12 35mm F2.8が貴重なのは、他の旧ソ連製レンズと同様、とても廉価に入手可能であるということ。
具体的には2万円以下の金額で十分中古が手に入るでしょう。

設計自体は古いものながら、描写はとてもシャープ。
さらに、まっすぐなものがまっすぐに写る、対称型ならではの歪曲収差の少ない画を楽しむことができますよ。

なお設計については、カール・ツァイスのビオゴン35mm F2.8を源流としているものの、旧ソ連国内で独自に改良が施されているようです。

マウントアダプターでの使用時には相性に注意

しかしながら、このジュピター12 35mm F2.8は、マウントアダプターでの使用時にカメラボディとの相性があるため注意が必要です。
後玉が張り出しているため、機種によってはカメラ内部の部品と干渉してしまい、装着ができないのです。

具体的には、SONYのAPSサイズのミラーレス一眼カメラ(NEX-5やNEX-7、α4桁シリーズ等)は使用不可

いっぽう、フルサイズカメラのα7シリーズは問題なく使用可能です。

また、APS-Cサイズのミラーレス一眼カメラでも、富士フイルムのXシリーズでは問題なく使用可能なようです。

レンズマウントとマウントアダプター

Jupiter-12 35mm F2.8のマウントはライカL39マウントとキエフ(コンタックス)マウント
キエフマウントをミラーレス一眼カメラで使用する場合「外爪」対応のマウントアダプターが必要です。

使いやすいのはL39マウントのもの。
マウントアダプターも廉価です。

ですが、Jupiter-12 35mm F2.8のレンズ自体はキエフ(コンタックス)マウント用の中古がかなり多く、しかも使いにくいので中古価格も安いです。
コンタックスマウントの外爪専用マウントアダプターは内爪対応のものよりずっと安いので、あえて外爪用アダプターを購入するのもアリかもしれないですね。

他にもあるジュピター一族

旧ソ連製のオールドレンズ、ジュピター一族のなかでメジャーなものは、以上の4種類だといえるでしょう。

ですが他にも、以下のようなレンズも存在しています。
ジュピターというコードネームが、旧ソ連製のレンズを幅広くカバーするものであったことがわかります。

  • Jupiter-6 180mm F2.8
  • Juputer-11 135mm F4
  • Juputer-13 125mm F1.5
  • Juputer-17 52mm F2
  • Jupiter-21 200mm F4
  • Jupiter-36 250mm F3.5
  • Jupiter-37 135mm F3.5
  • Jupiter-38 75mm F4
  • Jupiter-100 100mm F2.5

ジュピターレンズの製造工場

旧ソ連製のレンズは計画経済下で国営工場にて製造されていました。

本記事で解説した表にも工場の略称を記載していますが、それぞれ以下のような工場を示しています。

(地名等は記事執筆時、2018年のもの)

Arsenal

今回の記事ではライカスクリューマウント(L39マウント)用を主に紹介しましたが、そもそもジュピターというレンズは旧Contaxレンジファインダー用がルーツ。
コンタックス系のカメラ、キエフ用のジュピターは、ウクライナのArsenal製が多いです。

KMZ

クラスノゴルスク機械工場の略。
モスクワ近郊に所在。
キリル文字では「КМЗ」。

LZOS

リトカリノ光学硝子工場の略。キリル文字では「ЛЗОС」。
リトカリノもモスクワ近郊の都市名です。

ZOMZ

ザゴルスク光学機械工場
キリル文字では「ЗОМЗ」。
ザゴルスクはモスクワ州の都市で、現在はセルギエフ・ポサードと呼ばれています。

KOMZ

今回の記事で大きく取り上げたレンズの製造は行っていませんが、KOMZ(カザン光学器械工場)はジュピター11の製造を担当しています。
カザンは現在のロシア連邦を構成する共和国のひとつ、タタールスタン共和国の首都で、人口約110万人(2002年)。

VOMZ

ヴォログダ光学機械工場の略。ジュピターシリーズではジュピター21の製造を担当。
ヴォログダはロシア西部のヴォログダ州の州都です。

LOMO

レニングラード光学器械合同の略、キリル文字では「ЛОМО」。
レニングラードは現在のサンクトペテルブルグ。
ジュピター関係ではジュピター38を担当。
トイカメラの代表格、LOMO LC-Aを製造したことで全世界的に有名な旧ソ連の光学工場です。

ジュピターという名称

この記事で紹介したジュピターというレンズ名は、もちろん「木星」に由来。
元はといえばローマ神話の女神、ユピテルに由来する単語ですが、無神論・唯物主義を国是としていた旧ソ連の製品名であることから、惑星のほうを意識していたと思って間違いないでしょう。

英語表記ではそのまま「jupiter」。
キリル文字では「ЮПИТЕР」です。

またロシア語ではユピテルと発音するようです。

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とても安価に、描写に優れ、しかもドイツに源流を持つオールドレンズが楽しめる。
旧ソ連製レンズはとても魅力的な名玉が揃っています。

オールドレンズに興味を持ったら、ぜひジュピターを手に入れてみませんか?

日本製とは違う、ユーラシアの風漂う描写を味わうことができるかもしれませんよ。

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記事更新履歴

2022年2月26日

「ロシアレンズ」との表記を旧ソ連製レンズに改めました。旧ソ連から独立した各国製のレンズをひとまとめに「ロシアレンズ」と呼称していたことをお詫びの上訂正します。
その他、内容の誤り(製造工場関連)の修正、Lマウント→L39マウント・ライカスクリューマウントへの表記変更を行いました。

2022年8月24日

画像が抜けていた箇所にすべて画像を挿入しました。

著者紹介: サンライズカメラ

サンライズカメラは、いまでは数少なくなってしまった「フィルムカメラ専門店」の使命として、フィルムカメラに関する情報を公開し続けています。 「こんな記事が読みたい」というご要望がありましたら、お気軽にFacebook、Twitter、お問い合わせフォームなどからご連絡ください。カメラ愛好家のみなさん、これからフィルムを始めたいみなさんとお話できることを楽しみに待っています。

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