オールドレンズの代表!M42マウントおすすめ中古レンズ10選
いま、ミラーレスカメラやデジタル一眼レフを使っているカメラファンの間でどんどん人気が高まっている中古オールドレンズ。
なかでも、オールドレンズの代表といえばM42スクリューマウントのレンズなのではないでしょうか。
フィルム一眼レフカメラの「ユニバーサルマウント」として一時代を築いたM42マウント。
国産のペンタックスから東独カール・ツァイス・イエナのレンズまで、歴史に残る名玉が数知れないほど存在しています。
手ごろな値段のものから高価なプレミアレンズまで。
M42マウントの中古レンズはよりどりみどり。
マウントアダプターも安価に入手することが可能なので、オールドレンズ入門にもおすすめです。
今回は中古フィルムカメラ専門店、サンライズカメラのスタッフが、M42マウントのおすすめ中古レンズと、M42マウントのデジタルでの使い方、マウントアダプターを使用するときの注意点などについて紹介したいと思います!
目次
M42マウントオールドレンズをマウントアダプターで撮影した作例
まずは、どんな写真が撮れるのか作例を紹介します!
PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
撮影:雨樹一期
こちらの記事でさらに作例を紹介しています。
作例で使用したM42マウントアダプターはこちら
M42マウントで中古レンズを楽しむ
中古レンズを楽しむなら、リーズナブルな価格で世界各国のレンズが楽しめるM42マウントがおすすめ!
M42スクリューマウントとはいったいどんなレンズマウントなのか、ということから紹介していきます。
M42スクリューマウントとは
まず、M42スクリューマウントとはどんなレンズマウントなのでしょうか。
結論からいうと「M42という規格でネジが切られたマウント」ということになります。
M42とは、ピッチ(ねじ山の間隔)が1mmで、直径が42mmのねじを指します。
デジタルカメラの時代となった現代、カメラのレンズマウントは、監視カメラなどの例外を除き、ほぼすべてが「バヨネットマウント」です。
バヨネットマウントとは、カメラとレンズのマウントを噛み合わせて、回転させてはめ合わせるマウントのこと。
それに対して、今回紹介するM42マウントは「スクリューマウント」もしくは「ねじマウント」と呼ばれるものに分類されます。
その名の通り、マウントにねじが切られていて、レンズをくるくると回して着脱するのです。
スクリューマウントの特徴
スクリューマウントでは、ねじを数回転させることで固定します。
それに対し、バヨネットマウントではレンズがマウントを半周以上することはありません。
現在、スクリューマウントが一般には使われていない理由は、ねじを回す必要がありレンズの着脱に時間がかかるため。
また、回転させて固定するという機構上、レンズとカメラボディ本体の間で、絞り値やレンズ開放値などの伝達が難しいということも挙げられます。
また、ボディとレンズの間にロックはなく、ねじの力だけで双方が固定されることになります。
スクリューマウントのメリットとしては、製造が非常に容易であることが挙げられます。
初期のフィルム一眼レフカメラでM42マウントが多用されたのは、まさにこの製造しやすさが理由だと言って間違いないでしょう。
このメリットにより、スクリューマウントのマウントアダプターはとても安価に購入可能です。
代表的なスクリューマウントとしてはM42マウントの他に、バルナックライカやCanonのレンジファインダーカメラなどで用いられたL39マウント(ライカスクリューマウント)が挙げられます。
ユニバーサルマウントとしてのM42マウント
M42マウントは歴史上、世界各国で使われた「ユニバーサルマウント」でもありました。
ユニバーサルマウントとは、特許やパテントとは関係なしに、どのメーカーでも使用できて、互換性があるレンズマウントのこと。
このことにより、M42マウントには古今東西、さまざまな中古レンズが存在することとなったのです。
M42マウントの簡単な歴史
M42マウントの誕生は1948年。
旧東ドイツで開発されたPraktica(プラクチカ)が初採用のカメラです。*1
その後、東独の一眼レフカメラ「プラクチカ」で使用され続けたことから、M42マウントはかつて、「プラクチカマウント」と呼称されていました。
そもそも東独で生まれたレンズマウントであることから、東独カール・ツァイス(Carl Zeiss Jena)をはじめ、M42マウントの中古レンズにはドイツ製の魅力あるレンズが存在することとなったのです。
ドイツ製レンズの例:Pancolar 80mm F1.8
*1:『クラシックカメラ専科 No.38 プラクチカマウント』1996年、朝日ソノラマ、p.8, 58, 61
M42マウントを発展させたペンタックス
そんなM42マウントをさらに世界に広め、発展させたメーカーがありました。
日本のペンタックス(当時の旭光学)です。
ペンタックスは1957年、初代アサヒペンタックス(アサヒペンタックス、後の機種との区別のためアサヒペンタックスAPと俗称される)でM42マウントを初採用。*2
その後、S2やSVといった機種で人気を高め、ついには1964年のアサヒペンタックスSPが世界的に数百万台を売り上げる大ヒット商品となりました。
これら、1950〜1970年代前半のペンタックス一眼レフが採用していたのは、すべてM42マウント。
M42マウントを備えたペンタックス製一眼レフと、スーパータクマー・SMCタクマーといったM42マウントのレンズは、こうして膨大な数が製造され、M42マウントを世界により広めたのです。
なお旭光学では、M42マウントをSマウントと呼んでいました。
日本国内ではその他のメーカーもM42マウントを採用しており、富士フイルムやヤシカが有名です。
*2:『クラシックカメラ専科 No.30 ペンタックスのすべて』1994年、朝日ソノラマ、p.20
AE化に対応できず衰退
世界中に広まったM42マウントですが、1970年代に入ると徐々に廃れていきます。
先に述べたように、M42マウントには、着脱が面倒で、ボディとレンズの情報伝達が困難だという弱点がありました。
1970年代に入ると、一眼レフカメラにAEを搭載することが各メーカーの関心事となっていきました。
すると、AE(自動露出)に不向きなスクリューマウントの旧弊さがにわかに目立ちはじめてしまったのです。
また、そのままでは開放測光(レンズを絞り込まないで露出を計測すること)が困難であるということも大きな問題でした。
M42マウントでの開放測光はペンタックスや富士フイルム、東独プラクチカが実現していましたが、それぞれ別方式で、この頃になるとユニバーサルマウントを謳いながら互換性もなくなっていったのでした。
独自拡張の例:ペンタックスではレンズ後部に開放測光連動機構を追加
結果、各メーカーはレンズマウントをバヨネットマウントに変更することとなります。
M42マウントのカメラを最も多く製造していたペンタックスは、1975年にKマウントへ移行。
ただしKマウントは仕様を各社に公開した、M42と同じユニバーサルマウントを目指したものとなりました。
またKマウントはフランジバックをM42マウントと同じ45.5mmに設定し、マウントアダプターを介した使用が容易に可能となっていました。
PENTAX純正のマウントアダプターK(右下)とM42マウントレンズ
富士フイルムはペンタックスのKマウント移行後もM42マウントのカメラを製造し続けていましたが、結局独自のフジカAXマウントへ移行。
しかし遅きに失した感があり、富士フイルムは一眼レフから撤退することとなります。
いっぽうマウント変更については海外でも同じで、東独プラクチカも俗にプラクチカBマウントと呼ばれるバヨネットマウントへ移行することとなります。
マウントアダプターで脚光を浴びる
そんなM42マウントのレンズが、近年にわかに脚光を浴びています。
これは、ミラーレス一眼とマウントアダプターを使うことで容易に撮影できるようになったことが大きいでしょう。
それまでも、ペンタックスの一眼レフには純正のマウントアダプター(マウントアダプターK)がありましたし、CanonのEOSシリーズはフランジバックがM42マウントより短いため、社外品のマウントアダプターが存在していました。
しかし、わざわざ一眼レフで絞り込み測光でM42レンズを使うのは、非常にマニアックな行為でした。
その点、ミラーレス一眼では実絞りでレンズが使用できるため、一眼レフのように測光が不便、というようなことはありません。
また、スクリューマウントの特徴も吉と出ました。
製造が非常に容易なため、メーカーを選ばなければ、非常に安価にマウントアダプターを購入することができるようになったのです。
こうして、いまやM42マウントレンズは中古レンズの入門に最適な存在となったのです。
古き良き時代のオールドレンズ、しかもツァイスの血を引く東独製レンズも使用できる。
個性豊かな旧ソ連製レンズも使うことができる。
そんなM42マウント中古レンズならではの魅力が、いま、見直されています。
人気が高まったことにより、一部では中古価格が以前より上昇しています。
もしかすると、M42マウントの中古レンズはいまが「買い」なのかもしれません。
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M42マウントオールドレンズの使い方
それでは、M42マウントのオールドレンズを使うにはどうすればよいのでしょうか?
1.ミラーレス一眼でマウントアダプターを使用する
ミラーレス一眼:SONY α7
おそらく現在もっとも広く行われているM42レンズの使い方。
それがミラーレス一眼にマウントアダプターを介して装着するという方法です。
M42マウントのマウントアダプターは、前述したように非常に安価なものから、高価かつ精度の高いものまで、非常に多くの種類が出回っています。
具体的にはこちらの、K&F Conceptブランドのものなどが精度と価格のバランスが取れていておすすめだといえるでしょう。
注意点として、こちらも多くの場合、富士フイルムなどメーカー独自拡張のレンズが使えない場合があります。
オールドレンズの使い方については、こちらの記事も併せてご覧ください。
2.M42マウントのフィルムカメラで使う
もっとも制限なく使えるのは、M42マウントのフィルム一眼レフです。
マウントアダプターを介して使用した場合、各メーカーの独自拡張の開放測光機構が備わっているレンズが取り付けられないことがあります。
その点、M42マウントのフィルム一眼レフ、なかでもメジャーな機種を選べば、一切の制限・相性なしに使用することが可能なのです。
中古フィルムカメラ専門店、サンライズカメラのスタッフとしては、ぜひフィルムで中古レンズを味わっていただくのがおすすめです。
使いやすい機種を挙げるとすれば、以下の2つになるでしょう。
ASAHI PENTAX SP
まず、ペンタックスSP。
言わずとしれた、M42マウントフィルム一眼レフの代表です。
中古市場での絶対数が無尽蔵に近いほど多く、中古価格も非常に安価。
ただし状態の悪い個体も多いので、購入時にはチェックが必須です。
PENTAX SPについて詳しくはこちら
Voigtlander Bessaflex TM
そして、フォクトレンダー ベッサフレックスTM。
こちらは21世紀に入ってから新規に発売されたM42マウントのフィルム一眼レフです。
製造は日本のカメラメーカー、コシナ。
ベッサフレックスTMは、いわばペンタックスSPを現代の技術で蘇らせたフィルムカメラ。
操作方法はペンタックスSPとほぼ同一、それでいて内部機構は信頼性の高い、新しい時代の部品で設計されています。
ただし、ペンタックスSPよりも中古価格は高めとなるので、予算と相談して決めるのがよいでしょう。
3.ペンタックスKマウントのカメラで使う
デジタルでもフィルムでも容易に使用できるのが、ペンタックス製の一眼レフです。
ペンタックスはフィルム時代から現代のデジタル一眼レフまで、一貫してペンタックスKマウントを採用しています。
前述したように、KマウントはM42マウントとの互換性を考えて設計されているため、ペンタックス純正のマウントアダプターKを使用することで、簡単にM42マウントのレンズを使用することができるのです。
また社外品でも同様のマウントアダプターが供給されています。
※測光は絞り込み測光となります。
ただし、後述する富士フイルム独自拡張のレンズは、開放測光連動ピンが干渉するため使用できません。
M42マウント中古レンズをアダプターで使用するときの注意点
さて、M42マウントのレンズをマウントアダプターで使用する場合、注意することがいくつかあります。
1.絞りのオート・マニュアル切り替え機構の有無
M42マウントのレンズのうち、自動絞りを搭載したレンズは、レンズを外した状態で絞り開放がデフォルトとなっています。
そのため、そのままではマウントアダプターを介した使用時、絞りを絞り込むことができなくなってしまうのです。
ただしこの問題が発生するのは一部のレンズのみです。
M42マウント中古レンズの代表、ペンタックスのスーパータクマーレンズなどの場合、レンズ基部脇に「AUTO-MANUAL」の切り替えスイッチがあります。
ここをMANUALに設定することで、実絞りの使用が可能となります。
マウント脇のスイッチをスライドさせることで、絞りのオート-マニュアルが切り替わる
ほとんどのM42マウント中古レンズには同様の機構があるのですが、問題は、その機構がないレンズの場合。
スイッチのあるレンズとないレンズ
その場合には、レンズのマウント側にある絞り連動ピンを、押し込まれた状態にする必要があります。
解決方法としては、絞り連動ピンの押し込み機構のついたマウントアダプターを使うのがシンプルです。
マウントアダプターの押し込み機能
参考:押し込み機能がないアダプター
何らかの方法でピンを固定することも考えられますが、中古レンズは長い歴史を生き抜いてきた人類の遺産。
不可逆的な方法でレンズを改造してしまうことはおすすめできません。
※ピンの強制的な押し込みは、レンズによっては絞り機構に悪い影響を与えるという意見もあるのでご注意ください。
2.各社独自拡張のレンズが装着できないことがある
次に問題となるのが、開放測光のために各社が独自拡張したレンズが装着できないという問題です。
とくに問題となるのが、1970年代の、開放測光に対応した富士フイルム・フジノンレンズ。
開放測光対応のフジノンレンズは、絞りリングの後ろ側に突起を設けて、その部分をボディと噛み合わせることでレンズの絞り値を伝達しています。
この突起が、マウントアダプターを介して装着するときに引っかかってしまうのです。
厳密に言えば、付くことには付くのですが、根本まで入らないので無限遠が出ません。
この問題への解決方法としては、フィルムカメラで使うのが一番簡単です。
フィルムカメラ時代のM42マウントは、マウント自体のフランジの幅が狭く、開放測光用の突起が外側に出るため、引っかることはありません。
(ただしカメラにより異なります。少なくともペンタックスSP、ベッサフレックスTMはOKです)
またマウントアダプターを購入するときに、フジノン対応と謳われている、マウントのフランジ幅が狭いものを探すのひとつの手でしょう。
【2022年追記】
以下のK&F Conceptブランドのマウントアダプターは、マウント部が出っ張っていて、フジノンの突起を逃がす作りになっているので使用可能です。
なお、独自拡張レンズにまつわる問題は他にもあり、プラクチカ独自拡張の、マウント面に電子接点を持ったレンズをマウントアダプターで取り付けるときに、ボディ側にねじ穴があると引っかかる可能性があるといわれています。
M42マウントでぜひ使ってみたい中古レンズ10選
それではここから、M42マウントでぜひ使ってみたい中古レンズを紹介します。
オールドレンズ入門の参考にも、次に手に入れたいレンズを探すのにも、ぜひ役立ててくださいね。
1.Super Takumar 55mm F1.8
スーパータクマー55mm F1.8(後期型)
M42マウントのレンズをまず最初に取り上げるなら、やはりこのレンズを選ぶほかないでしょう。
定番中の定番。
旭光学(ペンタックス)の、スーパータクマー 55mm F1.8です。
このレンズは、ペンタックスSPをはじめとするペンタックス(旭光学)製一眼レフとセットで販売された標準レンズ。
無限にも思えるほどの数が市場に出回っており、中古カメラ店ならこのレンズが手に入らない場所は絶対にありません。
描写はといえば、基本的には1960年代のレンズのため、少しレトロさを感じるもの。
けっして解像力などの性能が悪いわけではありませんが、スーパータクマーの時代のペンタックスレンズはモノコートのため、カラーで撮影すると自然と、レトロな風合いの色調が得られます。
ボケ味も非常に素直で美しいです。
なんだか三丁目の夕日の世界を歩いているような写真が撮れるレンズ。
価格は非常に安く、どこでも手に入るので、オールドレンズの入門には最適です。
スーパータクマー55mm F1.8作例・関連記事
こちらの記事でさらに作例を紹介しています。
スーパータクマー豆知識
さて、実はスーパータクマーには2種類あり、初期型、前期型、後期型に大別されます。
まず初期型は、絞りリングの回転方向が他の型と逆になっています。
初期型はF16が左でF2.8が右。
前期・後期型はF2.8が左でF16が右です。
前期型と後期型にも見分け方がいくつかありますが、わかりやすいのは、レンズ前側の銘板です。
前期型はシリアルナンバーが「Lens Made in JapanとSuper Takumar」の間にある。
後期型はシリアルナンバーが「1:1.8/55」の後ろにある。
また前期型は文字が全体的に小さく、後期型は文字が大きく、太くなっています。
後期型については放射性物質を含んだトリウムレンズ(健康には影響がない程度)を使用したアトムレンズで、黄変している個体が多いため、購入するなら前期型がよいでしょう。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
2.Auto Yashinon DX 50mm F1.4
M42スクリューマウントを採用していた国産メーカーのひとつ、ヤシカ。
実はヤシカのM42マウントレンズも、カメラファンの間で中古人気が高いもののひとつです。
人気の秘密。
それが日本が誇る、隠れた名光学メーカーの「富岡光学」がレンズを製造していること。
富岡光学は一眼レフの他にもコンパクトカメラのエレクトロシリーズなど、ヤシカのカメラ全般にレンズを供給していたメーカー。
この富岡のレンズ、マニアの間ではボケの美しい、味のあるレンズとして珍重されているのです。
ヤシカのレンズは発売当時、けっして高級品ではありません。
しかしながら、古き時代のものづくりと職人のこだわりが、大衆機用レンズに奇跡的な魅力を与えてくれたのでした。
描写もさることながら、ここでおすすめするAuto Yashinon DX 50mm F1.4は外観も魅力的です。
真っ黒なスーパータクマーとはまた異なる、銀色が差し色として輝く見た目。
「ただのM42オールドレンズではない」ことが一目で分かることでしょう。
3.Super Takumar 28mm F3.5
続いて、こちらも定番レンズのひとつですが、Super Takumar 28mm F3.5を取り上げたいと思います。
Super Takumar 28mm F3.5は、見ての通り、旭光学のペンタックス一眼レフ用の広角レンズ。
1960年代、28mmという焦点距離が、「広角」というよりも「超広角」として捉えられていた時代のレンズです。
スペックとしては至って普通。
しかしながら、この普通ということこそが、このレンズの存在価値でもあるのです。
普通のレンズ。
ユーザーが最初に買う広角として「数が売れる」であろうレンズ。
だからこそ、このレンズには尋常ではない熱意が注がれ設計されたことが想像できます。
ときはペンタックスが世界一の大衆一眼レフメーカーとして乗りに乗っていた時代。
世界に通用する広角レンズとして、明らかに、同時代の一線を超えた性能と描写力を備えているのです。
陣笠型の歪曲収差こそあるものの、絞っても、開いてもよく写ります。
偉大なる普通、破綻のない描写。
それは、スペックをあえてF3.5と暗めに抑えたことも貢献しているでしょう。
使うなら、ファインダーがより明るいカメラと組み合わせると、このレンズがもっと楽しめるかもしれないですね。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
4.Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.4
M42マウントの魅力のひとつが、ツァイスの血筋を引き継ぐレンズを使えること。
このCarl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.4もまた、そんなツァイスレンズのひとつです。
Carl Zeiss Jena(カール・ツァイス・イエナ)とは、東西分割されたドイツのうち、東独側のツァイスのこと。
戦前はひとつだったカール・ツァイスは、戦後、西独のカール・ツァイス・オプトンと、東独のカール・ツァイス・イエナに分割されました。
戦前も、戦後も、世界一のレンズといえばツァイス。
もちろん、その遺伝子を受け継いだ東独ツァイスも、非常に魅力的なレンズのかずかずを生み出しました。
このFlektogon(フレクトゴン)は、そんな東側のカール・ツァイス・イエナが作った広角レンズ。
ツァイスの広角というと「ホロゴン」「ビオゴン」などゴンのつくネーミングが有名ですが、このフレクトゴンというネーミングは、レトロフォーカス(逆望遠型レンズ)に由来するネーミング。
すなわち、「反転」という意味です。
フレクトゴンには大きく分けて3種類あり、古い2種類はF2.8。
ここで紹介するF2.4は新しいタイプとなります。
さすがツァイスのレンズというだけあって、描写は現代のレンズと並べても遜色ない高品質なもの。
さらに、このフレクトゴン35mm F2.4には特徴があり、なんと最短撮影距離が20cm。
異常なまでに被写体に寄ることが可能です。
35mmというつけっぱなしにできる焦点距離、そして破綻のない手ごろな描写。
さらにマクロさながらの距離まで寄れる。
もしかすると、この1本だけあればだいたいの撮影はできてしまうのかもしれない。
そんな、不思議な独自性を持ったレンズがCarl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.4なのです。
カール・ツァイス・イエナのレンズは、こちらの記事でも紹介しています。
5.Cari Zeiss Jena MC Pancolar 80mm F1.8
次に紹介するのもCari Zeiss Jenaのレンズ。
こちらは、東独製M42マウントレンズの中でも、非常に中古人気が高く、珍重されている逸品。
Cari Zeiss Jena MC Pancolar 80mm F1.8は、東独、カール・ツァイス・イエナが生み出した中望遠レンズの逸品です。
Pancolar(パンカラー)とは、東独ツァイスの大口径レンズへのネーミング。
西独のツァイスではプラナーに相当する、高性能レンズの名前です。
その名前が表す通り、このMC Pancolar 80mm F1.8はポートレートにも最適な、非常に美しい描写をしてくれることで知られています。
発色も美しく、ボケもとても素直。
中望遠レンズに求められる能力をすべて満たしているどころか、一線を軽く超えた描写を実現できることから、このレンズを中古で求める人は数知れません。
このMC Pancolar 80mm F1.8が珍重されるのは、個体数の少なさも理由です。
Pancolarという名前のレンズは他の焦点距離では見かけることもありますが、この80mmはそもそも、あまりお店に並んでいないのです。
見かけたらぜひ手に入れたい珍しい中望遠。
それがMC Pancolar 80mm F1.8です。
6.Meyer-Optik Domiplan 50mm F2.8
東独のレンズメーカー、Meyer製のM42マウント標準レンズです。
このDomiplan 50mm F2.8は非常に個性的な描写をしてくれることで有名なレンズ。
逆にいえば非常に癖の強いレンズであるともいえるのですが、M42マウントのレンズを楽しむなら、ぜひ一度は味わってみたいものだといえるでしょう。
Domiplan 50mm F2.8の特徴。
それがバブルボケです。
このレンズは3群3枚のいわゆる「トリプレット」型を採用。
そのため開放付近で使うと、非常に個性的なバブルボケを味わうことができるように「なってしまった」のです。
近年バブルボケは急に注目を集め、珍重されるようになってきましたが、本来はレンズにコストをあまりかけられなかったからこそ生まれた産物。
そんな、本来なら顧みられることがなかったレンズが愛されるようになるのだから、M42マウントの中古レンズは面白いものです。
バブルボケが楽しめるレンズながら、このレンズは中古価格も比較的安価。
ドイツ製M42レンズを初めて買う場合も、特徴をわかって買う分にはおすすめだといえるでしょう。
7.Jupiter-9 85mm F2
さて、ここまで続けて東独製のレンズを紹介してきましたが、東独のレンズについて語るなら、旧ソ連製レンズについても語らなければ片手落ちでしょう。
そもそも、旧ソ連レンズの源流はツァイスにあるのですから。
このJupiterをはじめとする旧ソ連のレンズは、第二次大戦後、旧ソ連がカール・ツァイスの技術者を製造設備ごと自国に連行したことが始まりです。
そのため、戦後すぐの旧ソ連製レンズは、ツァイスのレンズそのものであることも知られています。
そんな、ツァイスの遺伝子を受け継いだレンズのなかでも人気が高い1本。
それがJupiter-9 85mm F2です。
このレンズはカール・ツァイスのゾナーをコピーしたレンズとして知られ、それゆえ性能も非常に高い水準を誇ります。
開放での描写は柔らかめ。
ボケもふんわりと優しく美しいものです。
絞ればしっかりと線を描き出す描写へと変化していくので、オールドレンズならではの、レンズの描写を使いこなす楽しみを味わえますよ。
絞りは自動絞りではなくプリセット絞り。
ミラーレス一眼カメラで使う場合には自動絞りを使用することはないので、逆に機構上、壊れにくく安心です。
外観や鏡筒のつくりこそ安っぽいですが、中身は本物中の本物。
M42マウントで旧ソ連のレンズをどれか選ぶとしたら、間違いなくこのJupiter-9 85mm F2がおすすめです。
作例・関連記事
こちらの記事でさらに作例を紹介しています。
こちらの記事ではJupiterシリーズのレンズを解説しています。
8.MIR-1B 37mm F2.8
こちらも旧ソ連のレンズで、MIR-1B、キリル文字ではМИР-1В。
読みは「ミール-1B」となります。
このレンズは焦点距離からも分かる通り、一眼レフ用広角レンズ。
レンズ構成としてはレトロフォーカスタイプとなります。
このMIR-1B、実は先に紹介したFlektogonの兄弟のようなレンズです。
そもそも設計時点でFlektogonを参考にしており、基本的に大きく変わらないまま、最初に製造された1958年から、21世紀に入るまで作り続けられてきました。
この、基本設計が変わらなかったというのが、このレンズのオールドレンズとしての魅力のひとつ。
初期のレトロフォーカスレンズ、まだ未完成だった頃のレトロフォーカスレンズをそのままに楽しむことができるのです。
この記事で写真を掲載したFlektogonは、開放値がF2.4となっていることからもわかるように改良が重ねられています。
それに対して、同じ設計のままのMIR-1Bはどんな描写をしてくれるのか。
ぜひ2つを使い比べてみませんか?
9.Helios-44 58mm F2
Helios-44 58mm F2もまた、旧ソ連製のM42マウントレンズのひとつ。
旧ソ連製レンズとしてはメジャーな部類で、中古の入手性も高いです。
このレンズの特徴。
それが、独特なボケ味です。
オールドレンズの描写は、絞りを開いた開放付近で個性が発揮されますが、このHelios-44はとくに特徴的。
ぐるぐるボケとも形容される、非常に派手なボケ味を楽しむことができるのです。
上で紹介したMeyer-Optik Domiplan 50mm F2.8と並び、独特なボケが欲しい方に人気の定番レンズです。
おすすめの定番オールドレンズ
M42マウントの旧ソ連製レンズとしては数も多く、中古の入手性も良好。
もともと、戦前にドイツのカール・ツァイスで作られた「ビオター」をベースとしているので、少し絞り込めば描写もとてもよいです。
M42レンズの定番のひとつとして、ぜひ中古で手に入れてみたい1本です。
Helios-44 58mm F2作例・関連記事
詳しくはこちらの記事でも解説しています。
10.FUJINON 55mm F2.2
さて最後にいま一度、国産のM42マウント中古レンズを紹介したいと思います。
先に紹介したペンタックス、ヤシカと並んで、M42マウント一眼レフを販売していたメーカーの代表、富士フイルムのレンズです。
富士フイルムのレンズ、フジノンの中でも中古で人気なのが、Fujinon 55mm F2.2。
フジカST605やST605 IIといった廉価機種とセットで販売されたレンズです。
富士フイルムのレンズは、基本的にはどれもクセのない優秀なものが多いのですが、この55mm F2.2だけは、独特な描写が楽しめるクセ玉として知られています。
そう、上で紹介したDomiplanと同様に、バブルボケを楽しむことができるのです。
3群3枚のドミプランに対し、こちらは4群4枚。
もう少し詳しくいうと、エルノスター型を前後反転したような構成をしています。
ですが、貼り合わせのない廉価版レンズのため、意図せずに独特なボケが楽しめるレンズに仕上がってしまったのです。
このようなシンプルな構成で、F2.8クラスに留めることをせず、2/3段明るくしたのも、癖のある描写の要因でしょう。
当時はあくまでもエントリークラスの安価なレンズでしたが、今ではむしろ、フジノン55mm F1.8のような「普通の標準レンズ」よりも人気があるくらいです。
鏡筒はプラスチックなのですが、経年劣化する傾向があります。
状態が悪いものは鏡筒にヒビや欠けが生じている場合もあるので、購入時にチェックしましょう。
さて、このFUJINONは開放測光連動用に突起があるので、カメラやマウントアダプターによっては干渉してしまい無限遠が出ません。
そのため、アダプター使用時には、あらかじめ対応しているものか確認するようにしましょう。
M42マウントレンズでオールドレンズに入門してみませんか?
オールドレンズの中でも、入口が狭く、そして奥行きが底なしに深いのがM42マウントの世界。
まずはスーパータクマーやIndustar50-2といった安価で数が出ているレンズで入門してみるのもおすすめです。
一度でもM42マウントのレンズを中古で手にしてみたら、きっと、現代レンズでは味わえない、深遠な描写に引き込まれること間違いなし。
もしオールドレンズに興味を持ったら、ぜひそのレンズと同時代のフィルムカメラも手にしてみてくださいね。
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写真・動画どちらもハイクオリティ。一度は手にしたい逸品!
FM2発売当時のマニュアルレンズにインスパイアされたデザイン!
どこでも持ち歩ける相棒です。
編集履歴
2022年2月26日
参考文献(『クラシックカメラ専科 No.30 ペンタックスのすべて』『クラシックカメラ専科 No.38 プラクチカマウント』)をもとに出典を追加。
その他、細かな表記の修正。
2022年8月26日
一部画像を差し替え
開放測光フジノン対応のマウントアダプターについて追記
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