ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る」 カメラ漫画紹介Part3
こんにちは。
中古フィルムカメラ専門店、サンライズカメラのSNS担当スタッフです。
たまにスタッフ自身の思い入れいっぱいにカメラを扱った作品について書いているのですが、今回は私としても本命の作品について。
1985年から1987年にかけて週刊少年サンデーに連載された「究極超人あ〜る」を語ります。
正直なところ日本のアニメ・漫画史上、相当に語り尽くされた作品ではあります。
しかしスタッフの私自身にとって、カメラや写真を趣味として、仕事として、やっていくうえで相当な影響を及ぼした作品なので、あえてここで語っておきたいと思うわけなのです。
前回の記事はこちら
目次
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究極超人あ〜る
稀代の文化部漫画、究極超人あ〜るについて。
「究極超人あ〜る」とは
週刊少年サンデーの、1985年22号から1987年21号まで、2年にわたって連載されたギャグ漫画です。
舞台は春風高校の光画部(写真部)。
※光画部については後述します。
光画部に突如表れたアンドロイド(ロボットではない)の部員、R・田中一郎と、それぞれに曲者揃いな部員やOB、春風高校の生徒たちが繰り広げる、80年代みあふれる作品です。
作者はゆうきまさみ。
一般には「機動警察パトレイバー」の作者のひとり(漫画版連載を担当)として知られています。
「究極超人あ〜る」が新しかったこと
(この考察自体どこかで誰かが語っていたことに影響を受けているのですが)
1980年代なかばに連載を開始した究極超人あ〜るが作品として新しかった点。
それが、写真部という「文化部」のリアルを如実に表現したところだった、といわれています。
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第3巻」 小学館 1991年20刷 p.148より引用
部活をテーマにした漫画というものは、それ以前にも存在していました。
とはいえ、主に取り上げられるのは運動部。
詳しく調べたわけではないのでゼロとはいえないですが、文化部を取り上げた作品というのは、それ以前、限りなく少数派の存在でした。
しかし、少年サンデーという雑誌の1980年代黄金期がそこに風穴をあけます。
これは暴論であることは自覚していますが、あだち充が『ゆるいスポーツ漫画』というコンセプトを打ち立てたことが、文化部漫画というものが許される時代の空気を作ったのかもしれません。
「タッチ」などの作品で知られるあだち充以前、スポーツ漫画といえばスポ根の後遺症を引きずっていました。
そこに、スポーツを主題としながら恋愛のような、いわば軟派な要素を同時に描く作品が生まれ、一気に許容されるようになったのです。
(1987年になると、キャプテン翼でさえ恋愛要素を入れ込んでしまうのです)
スポーツに対する軟派といえば、文化部も同じ。
現在ではありとあらゆる文化系の部活や趣味が、作品の主題となっています。
その流れにおいて、究極超人あ〜るが大きな役割を果たしたことは間違いないでしょう。
オタクを描いた漫画
そもそも、究極超人あ〜るはゆうきまさみの週刊初連載作品。
そのような作品が文化系をテーマとしたことは、ゆうきまさみの出自とも大いに関連しています。
漫画家・ゆうきまさみが頭角を表したのは、1980年代に一世を風靡した伝説のアニメ雑誌、月刊アウト(OUT)のアニパロ作品がきっかけ。
究極超人あ〜るの作中には、時事ネタだけでなく特撮・アニメのパロディが数え切れないほど登場しますが、これはそのような作風を持ち込んだものでもあるわけです。
現代に至るまでのアニメ・漫画評論で究極超人あ〜るが重要視され、古典となっているのは、オタクがオタク自身を描いた漫画の嚆矢であることが大きいのです。
脱線:究極超人あ〜るの後継者たち
文化系部活を描いた作品といえば、その後どんなものが続いたのか。
影響下にある作品を、少しだけ脱線してピックアップします。
げんしけん
1980年代、オタクの巣窟といえば写真部だったわけですが、2000年代のオタクの巣窟を描いた作品といえば間違いなくげんしけんになるでしょう。
単にあっけらかんとしていた究極超人あ〜るに対し、こちらはもう少しドロドロとした自意識の描写が中心となっています。
涼宮ハルヒの憂鬱
漫画ではなくライトノベルですが、涼宮ハルヒの憂鬱の本質は文化部を描いた作品です。
そもそもアニメが放送された2006年の時点で、涼宮ハルヒの憂鬱は現代の究極超人あ〜るだ、と評されていたくらいなのです。
ゆるい日常を部室で過ごす。
メインのストーリーとは関係のない、取るに足らないトラブルの日常を描いている点において、涼宮ハルヒは非常にあ〜る的であるといえます。
作品について
作品について少しだけ語ります。
究極超人あ〜るの舞台
究極超人あ〜るの舞台となっているのは、東京都練馬区にある春風高校。
春風高校の所在地は、西武池袋線の江古田と桜台の間にある諌坂町(いささかちょう)と設定されています。
西武線沿線にはアニメスタジオが多く、漫画家やアニメーターも非常に多く住んでいることは有名。
本作の舞台が練馬区に設定されたことも、そのことを下敷きにしているといえるでしょう。
ただし、実際の土地から考えてみると、江古田と桜台の間はとても狭く、架空の土地をねじ込む余裕というのはほとんどありません。
江古田駅から桜台駅へ千川通りを歩き、武蔵大学を越えて環七の陸橋をくぐると、町としてはもう桜台です。
漫画ならではの異次元の時空間といえるでしょう(まぬけ時空の産物なのかもしれません)。
(余談ですが、ゆうきまさみもキャラクターデザインに参加している1980年代のOVA「デルパワーX 爆発 みらくる元気!!」には千川通りが環七の陸橋をくぐる場所が登場しており、背景美術が現在の風景ともうりふたつです)
なお、江古田は日本の写真界の最高学府、日本大学芸術学部(日芸)のお膝元でもあります。
日芸
究極超人あ〜るの作中では、光画部員のしいちゃん(堀川椎子)が卒業後に日芸写真学科に進学しています。
光画部という部活
究極超人あ〜るのメインキャラクターたちは、皆「光画部」(こうがぶ)という部活のメンバーです。
光画部とは、いわゆる写真部のこと。
(作中には光画部とは別に写真部も登場しますが)
なぜ、光画部という名前なのかといえば、Photographyの訳語に由来します。
「写真」を表すPhotographyという横文字の単語は、日本語に直訳すると「光の絵」となります。
なぜ、日本ではPhotographyが原語とは全く異なる意味の「写真」となってしまったのか。
そのことに疑問を持った人は、歴史上にもいました。
そう考えた写真家が、戦前、光の画(絵)と名付けた雑誌を作ります。
その名も「光画」(こうが)。
(画像はZen Photo Galleryによる復刻版)
手がけたのは野島康三・中山岩太・木村伊兵衛という、日本の写真史におけるトップクラスの重要人物3人です。
Photographyの適切な訳語である光画という言葉。
それ以前の用例を調べてはいないので確実なことはいえませんが、現在、光画という単語をあえて用いる場合には、この戦前の雑誌に由来していることがほぼ100パーセントです。
春風高校の光画部も、このことに由来して名付けられたネーミングであるわけです。
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どこでも持ち歩ける相棒です。
究極超人あ〜るの写真ネタ
では肝心の、究極超人あ〜る作中のカメラ・写真関係のネタにはどのようなものがあるのでしょうか。
「逆光は勝利」「世はなべて三分の一」「ピーカン不許可」「頭上の余白は敵だ」「トライXで万全」
究極超人あ〜るについて語るときに、だいたい引き合いに出されるパワーワードたちです。
単行本8巻の『これが基本だの巻』に登場。
具体的に見ていくと……
逆光は勝利
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.19より引用
ポートレートを撮るときに、順光よりも逆光のほうがよい結果が得られるということを指しています。
逆光で撮ると輪郭がきらめいて美しく、また顔の陰影が強調されないため、とくに女性ポートレートが美しく撮影できます。
ただし露出計の値を逆光補正したり、レフ板で顔を起こす必要も出てきます。
世はなべて三分の一
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.19より引用
画面を縦横ともに三分割して、その上に被写体を置くと画面が締まって見える、ということを表しています。
筆者もかなり意識しています。
ピーカン不許可
ポートレートを撮るときに、快晴の日の直射日光では、前髪で顔に影が落ちたり、目鼻の立体感がどぎつくなったりしてしまいます。
一見露出などの面で厳しそうな曇り空のほうが、空が天然のソフトボックスになってくれて、ポートレートが美しく撮れるということを表しています。
頭上の余白は敵だ
ポートレートを撮るときに、初心者が撮ると顔を画面の真ん中に置いてしまいがち。
すると、顔の上に不自然な余白ができてしまいます。
そのような余白をなくすために、被写体の人物の顔を、画面の上半分に置くとよい、ということを表しています。
トライXで万全
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.18より引用
「トライXで万全」
「基本はやっぱりネオパンSSじゃないですか?」
「トライX! これを4号か5号で焼いてこそ味がでる」
「基本は3号ですよ、やっぱり」
トライXはコダックのモノクロフィルム。
ネオパンSSは富士フイルムのモノクロフィルムで、どちらも当時の代表的銘柄です。
(トライXは現在も販売されていますが、ネオパンSSは2013年に販売終了しています)
トライXの特徴として、コントラストが強い(硬い)画になるということがありました。
いっぽう上記の台詞にある3号、4号、5号というのは、印画紙のコントラストのこと。
数字が大きくなるほどコントラストが強くなります。
もしトライXで撮って5号で焼くと。
黒と白の2階調のような、間のグレーがない画になってしまうわけです。
有名な写真家でいうと、森山大道の作品をイメージするとよいでしょう。
「逆光は勝利」と「トライXで万全」の対立
「トライXで万全」を語ったのはOBである鳥坂先輩。
いっぽう「逆光は勝利」などのポートレートについての格言を語ったのは、同じくOBのたわばさん。
鳥坂先輩は、硬調で先鋭的な作品作りを語っている。
たわばさんは中間のトーンを出す作品作りを語っている。
OB同士が勝手に独自の(矛盾する)作品論を戦わせているという出しゃばりが、このシーンの笑いどころであるわけです。
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.19より引用
超兵器F-1号
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第7巻」 小学館 1990年15刷 p.166より引用
単行本7巻『超兵器F-1号の巻』に登場。
Canonの一眼レフカメラ、New F-1のことです。
登場人物の鰯水くん(名前は「愛と誠」の岩清水君に由来)が親から借りてきたカメラ。
当時の最高級機種なので、高校生には手が出ないカメラです。
同じ話で鳥坂先輩が持っていたカメラは、New F-1のライバル、ニコンF3でした。
「6×9判じゃないか。うちの引伸機じゃ伸ばせないぞ!」
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.14より引用
初出は上掲単行本8巻の『これが基本だの巻』。
登場人物の西園寺えりかが持ってきたカメラが6×9判の中判カメラで、光画部の部室にある引き伸ばし機が対応していないということです。
ただし、単行本2巻p.121のコマを見ると、富士フイルムN690MFと思しき引き伸ばし機が描かれています。
もしかするとネガキャリアや伸ばしレンズがないということなのかもしれません。
えりかが持ってきたカメラはマミヤプレスです。
「このカメラ貸してやるから」
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.14より引用
単行本8巻の『これが基本だの巻』、上記項目で使えないカメラを持ってきてしまったえりかに、鳥坂先輩がコンパクトカメラを貸します。
どのようなカメラか判別は難しいのですが、どうもファインダー窓の形状的に、ヤシカTや京セラTDのような、ツァイスレンズ搭載のコンパクトカメラである気がします。
「月光」
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第8巻」 小学館 1987年初版 p.41より引用
単行本8巻 p.41。
Rが持っている印画紙は三菱の月光です。
現在ではインクジェットの写真用紙のブランドになっています。
「現像タンク。ポリタンク。ガスタンク」
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第5巻」 小学館 1986年初版 p.8より引用
単行本5巻 p.8。
光画部で使っているのはキングのプラスチック製タンクのようです。
私はLPLのナイコール型タンクの愛用者なので、キングのタンクはいまいちわかりません。
(マスコは高くて買えません)
「粉砕バット」
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第5巻」 小学館 1986年初版 p.9より引用
単行本5巻 p.9。
ただの野球バットです。
現像用のバット(つまりトレー)と言葉が同じというだけのシャレですが、究極超人あ〜るが好きな人は、野球バットのことを粉砕バットと呼びがちな気がします。
単行本5巻 p.50のカメラ
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第5巻」 小学館 1986年初版 p.50より引用
Rくんが撮影しているコンパクトカメラは、ミノルタAF-Sです。
曲垣のカメラ
単行本5巻 p.143。
明確に書いてあるとおり、Canon AE-1です。
ソラリゼーションキック
単行本7巻 『究極の戦士よ永遠に』の巻より、コウガマン主題歌の歌詞。
ソラリゼーションとは、現像時に強い光を一瞬だけ露光すると、階調が反転するという現象。
マン・レイの作品が有名。
ブルー調色キッス
出典は同上。
モノクロプリントの銀粒子を置き換えることで色調を青にすること。
筆者は調色はしたことがないのでこれについては曖昧です。
単行本の表紙
究極超人あ〜るの少年サンデーコミックスの単行本はカメラのファインダーをモチーフにしていますが、モデルは明らかにニコンF3のファインダーです。
F3のファインダー
単行本10巻が登場
究極超人あ〜るの単行本は9巻で完結していたのですが……。
2018年。
近年各誌に復活連載された作品をまとめた10巻が、なんと刊行されてしまったのです!!!
ただし絵柄は当時とは異なります。
内容については単行本を見てのお楽しみとして、カメラ関係のネタについて触れると……
コンタックスRTS
ゆうきまさみ 「究極超人あ〜る 第10巻」 小学館 2018年初版 p.58より引用
単行本10巻 p.58。
超兵器F-1号へのアンサーとして、まさかのコンタックスとツァイスレンズが登場しています。
超金持ちという設定のえりかが買ってきたカメラという設定。
時代的にはRTS2になるでしょう。
CONTAX(コンタックス)RTS・II・III/ツァイスの性能を引き出すための最新技術 初代からRTS IIIまで徹底解説
カメラが好きなら楽しめること間違いなし!!
もはや古典的作品ではありますが、カメラが好きなら究極超人あ〜るを読んで損はありません。
筆者のポートレート撮影技術の8割は鳥坂先輩の格言でできているといっても過言ではないくらいです。
新装版やワイド版、コンビニコミックなど入手は容易なので、ぜひ読んでみませんか?
ちなみに筆者は、登場人物では小夜子が好きです。
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