PANON WIDELUX(パノン・ワイドラックス)/スイング式国産パノラマカメラの雄
中古フィルムカメラの名機について解説している「フィルムカメラ大全集」。
今回は普段解説している機種とは趣向を変えて、特殊な「パノラマカメラ」について解説したいと思います。
今回紹介するのはパノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)です。
パノン ワイドラックスは「スイング式」と呼ばれるパノラマカメラ。
パノラマカメラとは、普通の写真に比べて横長の写真を取ることができるフィルムカメラのことです。
横長の写真そのものはデジタルの合成でも可能ですが、合成ではない、本物のパノラマ撮影は、長いロールフィルムを用いる中古フィルムカメラだからこそ可能なもの。
パノラマカメラというジャンルには複数の機種がありますが、日本製の中古機種としては、このパノン ワイドラックスがもっとも有名なものです。
フィルムを使うからこそ可能な楽しみ、パノラマカメラ。
ぜひ、パノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)であなたも写真の楽しみを広げてみませんか?
この記事では、スイング式のパノラマカメラならではの構造を中心に、解説していきたいと思います。
目次
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FM2発売当時のマニュアルレンズにインスパイアされたデザイン!
どこでも持ち歩ける相棒です。
パノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)
まずは、パノラマカメラのパノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)特有のスペック・性能について見ていきましょう。
パノン ワイドラックスの性能・スペック
WIDELUX F7型
(下記のスペックはF7型のもの)
形式 | スイング式パノラマカメラ |
シャッター | 1/15秒、1/125秒、1/250秒 機械式 |
露出計 | なし |
露出 | マニュアル |
ファインダー | アイレベル透視ファインダー |
画面サイズ | 横59mm x 縦24mm/td> |
レンズ | 焦点距離26mm 開放 F2.8 首振り式 |
電池 | 不要 |
発売年 | 1958年〜(シリーズ全体) 1979年(F7型) |
パノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)は、日本のカメラメーカー、パノンカメラ商工が1950年代から2005年まで製造・販売したパノラマカメラのシリーズ。
パノンカメラ商工というと珍しい会社のように思えますが、日本にはこのような、小規模かつマニアックなカメラを作る光学機器メーカーが数多く存在しています。
パノン ワイドラックスを作ったこの会社も、パノラマ写真のためのフィルムカメラという一種のニッチを獲得した存在として、写真がデジタルに移行するまで長命を保ったのでした。
パノラマカメラとパノラマ写真
パノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)は、横長の画面で写真を撮ることができるパノラマカメラです。
パノラマカメラで撮影した写真は、下記のように横長の画面となります。
パノラマ写真
普通の写真
読者の方も、スマートフォンのカメラのパノラマ機能で、パノラマ画像を撮影したことがあるのではないでしょうか?
パノン ワイドラックスで撮影できるのも、まさにそんな写真。
横長の画面で、広い範囲を写し取ることができるので、作品制作の道具にも、記録の道具としても有用です。
実際、現役で販売されていた当時のパノン ワイドラックスは、警察署などの記録写真撮影用としても納入され、業務で使用されていたといいます。
ほかにも、土地の調査や景観の記録など、広範囲を1つの画像で記録できる特性は、プロが使う記録の道具としてとても有用なものだったのです。
当然ながら、趣味の中古フィルムカメラとして使う場合にも、他のカメラには真似のできない写真を生み出すことができますよ。
デジタルには真似のできないフィルムのパノラマカメラ
さらに。
フィルムのパノラマカメラには、デジタルカメラで作ったパノラマ写真には絶対に真似のできない特徴があります。
それが「合成ではない」ということ。
デジタルカメラのイメージセンサーは、縦横の比率が3:2か4:3にほぼ限定されています。
もし横長のパノラマ写真を作ろうとすると、合成するか、上下を切り取ってトリミングするしか方法がないのです。
いっぽう、フィルムカメラなら制限はありません。
パノン ワイドラックスで使用するロールフィルムは、長いフィルムが巻かれている構造。
そのため、横長の写真が撮りたい場合には、1枚の写真に使う長さを長くすればよいだけなのです。
縦と横の比率は、フィルムをどれくらいの長さ、使ったのかで決まります。
トリミングもされていないので画質は良好。
合成した場合のような不自然さもありません。
パノン ワイドラックスの特徴――スイング式パノラマカメラ
それでは、パノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)という機種にはどのような特徴があるのでしょうか。
最大の特色、それが「スイング式のパノラマカメラ」だということ。
さらにいえば、同様の形式をもつ中古フィルムカメラとしては、日本製で唯一の存在であるということも特筆できます。
スイング式パノラマカメラとは
「スイング式パノラマカメラ」とは、どのような形式なのでしょうか?
結論からいえば、
「カメラのレンズが左右にスイングして撮影するカメラ」
ということになります。
レンズが左右に首を振る
パノン ワイドラックスのレンズは、外観の写真を見ればわかるとおり、カメラ中央部の円筒形の部分に固定されています。
シャッターを切ると、この円筒部分が左右に回転。
レンズが正面から見て右から左に移動するのです。
こうすることで、レンズを広い範囲に向けることができ、広範囲を撮影することが可能となるのです。
1枚の写真に写り込む角度は140°。
水平画角140°というのは、通常の広角レンズでいえば、35mmフルサイズ換算で焦点距離約6.5mmという、異常なまでの広い角度に相当します。
パノン ワイドラックスに装着されているレンズは焦点距離26mm前後ですが、レンズ自体を動かすことにより、レンズ自体の焦点距離以上に広い画角を1枚に写し取ることができるのです。
レンズが左右に首を振っても撮影できる理由
ではなぜ、レンズが左右に首を振るのに、問題なく写真を撮ることができるのでしょうか?
それは、
「レンズとフィルムの距離が一定に保たれている」
ためです。
裏蓋を開けてみましょう。
すると、写真のようにフィルムが走行する部分も円筒形になっており、レンズを通った光はスリットを通ってフィルムに向かいます。
断面図で解説すると以下のようになります。
レンズが左右に移動すると、フィルムの円筒の反対側にある部分に露光される状態になります。
レンズの走行速度は一定のため、露出にもムラがない状態で写真を撮影することができるということになります。
ちなみに同様の原理で、固定したレンズの後ろをフィルムをまっすぐ走行させると、電車や飛行機など一定の速度で走っているものを1本のフィルムに長く写し取ることができる「スリットカメラ」になります。
スイング式パノラマカメラの構造上の制限
レンズが左右に移動するという構造上、パノン ワイドラックス(PANON WIDELUX)には性能に制限があります。
シャッター速度が限られているのもそのひとつ。
たとえばパノン ワイドラックスF7型では、1/15秒、1/125秒、1/250秒の3種類しか使えません。
また当然バルブ撮影もできません。
いっぽう絞りは、F7型ではF2.8からF11まで設定が可能。
ピントに関しては、35mmフィルムのモデルは調節できず、パンフォーカスとなります。
120フィルムを使用する中判のモデルは目測で設定可能となります。
パノン ワイドラックスの種類
ワイドラックスの種類を簡単に解説します。
パノンカメラ
ワイドラックスの前身。
120フィルムを使用する中判カメラ。
1952年に小西六(コニカ)のヘキサー50mm F3.5を装着したパノンカメラ50A(業務用)、パノンカメラAII(一般販売)が発売。
1953年にレンズはヘキサノン50mm F3.5となり、AIII型となりました。
その後は、1954年:パノン50mm F3.5を装着したAI型も登場しました。
35mmフィルム使用のワイドラックス
FV型:1958年。
FVI型:1964年発売。
F6型・F6B型:1970年代前半のモデル。
F7型:1979年。
F8型:1988年の最終機種。レンズは26mm F2.8。
120フィルムのワイドラックス
ワイドラックス1500:1987年発売。レンズは50mm F2.8。
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パノン ワイドラックス 使用のポイント
そもそも特殊な形態のフィルムカメラであるパノン ワイドラックスですが、使用にあたっても注意が必要です。
水準器を使う
パノン ワイドラックスには、上部に水準器が内蔵されています。
これは、パノラマ撮影では水平をしっかり出すことが重要なため。
わずかでも傾いていると、横長の超超広角画面では、左右の差が非常に大きくなってしまうのです。
失敗写真を量産しないためにも、撮影時には1枚1枚、水準器を確認するようにしましょう。
現像に出すときは長巻仕上げで
現像に出すときにも注意が必要です。
パノン ワイドラックスの画面サイズ、59mm x 24mmというのは、他の中古フィルムカメラにはないイレギュラーなサイズです。
そのため、現像に出すときにはパノラマカメラで撮影したことを伝え、現像したフィルムをカットせずに返してもらうように頼むのがおすすめです。
「カットしないで長巻希望」と伝えるのがおすすめ。
もしも現像に出すお店が特殊カメラについての知識を持っている場合には、通常のフィルム用スリーブの横幅に合わせて、数コマごとにカットしてもらうのもアリです。
この2つの注意点は、下で紹介する他のパノラマカメラでも同様です。
他にもあるスイング式パノラマカメラ
パノン ワイドラックスは、スイング式パノラマカメラの代表格。
そもそもこのジャンルのカメラは数が少ないですが、他に有名機種として、以下の2つが挙げられます。
HORIZON(ホリゾン)
旧ソ連・ロシア製のパノラマカメラ。
パノン ワイドラックスと並ぶ、中古でパノラマカメラを手に入れたいときの有力な選択肢です。
NOBLEX(ノブレックス)
ドイツ製のパノラマカメラです。
水平画角130°。
PANONやHORIZONに比べ値段は高め。
スイング式パノラマカメラとレンズ固定式パノラマカメラ
なおパノラマカメラには、スイング式のほかに、レンズが固定されている、通常のカメラと同じ形態のものも存在します。
当サイトで紹介している、富士フイルムTXシリーズ(TX-1、TX-2)もそのひとつ。
富士フイルムTX-1のようなレンズ固定式パノラマカメラには、パノン ワイドラックスのようなスイング式と異なり、シャッター速度やピントが容易に変更可能という利点があります。
そのかわり、レンズ固定式のパノラマカメラでは、横長の写真を撮るために1度に広い範囲が写るレンズを作らないといけないという、設計上の制約が生まれ、値段もとても高価になりがちです。
また、いかにレンズを超広角に作っても、パノン ワイドラックスの水平画角140°には及びません。
(TX-1の広角レンズ 30mmの水平画角は約95°)
疑似パノラマ
また、パノラマ写真が撮影できることをうたった機種には、通常の35mmフィルムカメラの写真の上下を切り取って撮影する「疑似パノラマ」というものもあります。
主に1990年代の中古フィルムカメラで、本体に「パノラマ」「PANORAMA」と書かれているものは、ほぼ100%疑似パノラマです。
疑似パノラマについても以下の富士フイルムTXシリーズの記事で解説しているので、気になる方は参考にしてみてください。
おすすめ関連商品
露出計のないフィルムカメラの使用にあたっては、アクセサリーシューに取り付けられる露出計を使用するのがおすすめです。 中国製の小型クリップオン露出計としては以下のものが。またパノラマカメラという関係上、もちろんポジでも撮影できますが、カラーネガで撮影してプリントするとよいでしょう。
35mmフィルムはこちらがおすすめです。マニアックな中古フィルムカメラを楽しんでみませんか?
このように、パノン ワイドラックスは中古フィルムカメラの極北ともいえるマニアックな機種。
ですが、独特な外観から容易に想像ができるような、他のカメラでは絶対に真似することのできない写真を撮ることができますよ。
誰が撮っても、特殊カメラで撮ったことがわかる、真似ができない写真が撮れる。
むしろ、カメラに撮らされることがないように気をつけたほうがよいくらいかもしれません。
デジタルでは不可能な、フィルムカメラならではの「本物の」パノラマ写真。
ぜひ未体験の世界に飛び込んでみませんか?
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