[コラム] フィルムカメラのメッキ
フィルムカメラの色というと、ほとんどは銀色か黒のどちらかです。
愛好家は銀色のカメラを白いカメラと呼ぶことがありますが、現在では 本当に真っ白なデジカメが多く販売されるようになってしまいました。
フィルムの時代、本当に真っ白だったカメラというとミノルタα-8700 ミールが有名ですが、 記念モデルというイレギュラーなものでした。 色の付いたカメラは昔から存在ありましたが、現代に至るまで、 カメラの色というと黒か銀色のどちらかです。
メッキに包まれた往年の名機たち
さて、メッキの話です。 金属製カメラが華やかなりし時代、そのほとんどには銀色のメッキ、 すなわちクロームメッキが施されていました。 高級機種においてはブラックペイントも併売されてはいたものの、 ブラックのほうが高価なことがほとんどだったため、現在でも中古カメラ店では 白いカメラのほうが多く棚に並んでいます。
ライカM2 ブラックがコレクターズアイテムとして非常な高値で 取引されているのが有名な例でしょう。 真鍮の外装部品に施されたメッキですが、その仕上げひとつをとっても、 カメラごとの個性が見てとれます。
個性豊かなメッキの筆頭といえば、ヤシカエレクトロシリーズです。 にぶく光を反射するギラギラのメッキは、60年代の庶民の夢です。 エレクトロという名前の象徴する、電子制御への夢が反映されたかのようなデザインです。
国産カメラのメッキ技術
また、オリンパス・ペンのメッキを見ると、少しずつ外装にコストを掛ける 余裕ができたことがよくわかります。初代オリンパス・ペンは、6,800円という戦略的価格設定を実現するため、製造コストをレンズに集中し、他を割り切る設計をしていました。メッキもそのなかのひとつです。ですが後年のペンEEくらいになると、初代ペンに比べ、メッキの粒子が細かくなり高級感がかもし出されてくるのです。一眼レフのPen Fシリーズともなれば、完璧な高級機の仕上げです。
それに比べ、オリンパス・ペンと同時代に大ヒットした大衆機、キヤノネットは、 こちらも安価な価格設定ながら非常に質の高いメッキが施されています。 当時から大メーカーであったキヤノンの面目躍如といったところです。 いっぽう、高級機種ではそこまで露骨なメッキの差はあまり見られません。
もちろんメーカーごとの特色はありますが、ライカIIIcシャークスキンの メッキ劣化のような極端な例も、当然のことですがありません。 これは日本のカメラメーカーの高い技術力のたまものにほかありません。
しかし、美しいクロームメッキが施されたカメラを新品で手に入れることはもうできません。 メッキに使用される有害な薬品の規制により、現在販売されている銀色のカメラの外装には 他の技術が用いられているのです。 メッキ技術の粋が集まった高級機にも、技術とコストの狭間での工夫が見える大衆機にも、 今では得られない手触りを感じられるフィルムカメラ。 どれも、先人の手仕事が垣間見える工芸品です。
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