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PENTAX(ペンタックス)MZ-S/理想の「ハイパー操作系」を取り入れた異形の名機

PENTAX MZ-S

今回は、PENTAXのフィルム一眼レフカメラ、MZ-Sについて解説します。

いまでも熱烈な愛好家が多いPENTAXのフィルムカメラ。
なかでも、発売から時間が経っても今なお中古で探し求める人が多いのが、オートフォーカスのMZシリーズの最終形態、MZ-Sです。

MZ-Sの特徴。
それがPENTAX独自の「ハイパーオペレーティングシステム」操作系です。
プログラムとマニュアル露出をシームレスに移行するというコンセプトは、他社ユーザーからするととっつきにくいきらいもありますが、一度慣れると「これなしでは撮影できない!」というくらいにドハマリしてしまう、噛めば噛むほど味の出る技術。
もしいまPENTAXのデジタル一眼レフを使っているという方は、ぜひPENTAXのオートフォーカスフィルム一眼レフの到達点、MZ-Sを中古で探してみるのがおすすめです。

外装もマグネシウム製で質感も良好。
発売当時は賛否両論だったデザインも、いまとなっては他に似たものがないという魅力をたたえています。

では、PENTAX MZ-Sにはどんな特徴があるのか見ていきましょう。

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PENTAX MZ-S

まずは、PENTAX MZ-S(ペンタックスMZ-S)の性能や特徴について見ていきましょう。

PENTAX MZ-Sの性能・スペック

PENTAX MZ-S

形式 35mmフィルム一眼レフカメラ
シャッター B、30秒~1/6000秒
電子式
縦走り金属幕フォーカルプレーンシャッター
ストロボ同調速度1/180秒
露出計 TTL開放分割測光(6分割)
中央重点測光
スポット測光
露出モード プログラムAE
絞り優先AE
シャッター優先AE
マニュアル
ファインダー 固定式アイレベル
0.75倍
レンズマウント PENTAX KAF2マウント
対応レンズ PENTAX Kマウント系の各種レンズ
連射速度 2.5駒/秒
電池 CR2リチウム電池(Amazon)x2
バッテリーグリップBG-10装着時は単3乾電池x4も可
発売年 2001年

PENTAX MZ-S(ペンタックスMZ-S)は、2001年に旭光学(ペンタックス、現リコーイメージング)が発売したオートフォーカスのフィルム一眼レフカメラ。

実質的にPENTAX MZシリーズの最上位機種にして、他のMZシリーズとは異なったコンセプトを持つカメラです。

PENTAX MZ-Sのスペック面から見た特徴

PENTAX MZ-S

では順番に、PENTAX MZ-Sの機能的な特徴について見ていきましょう。

シャッター速度は最高速1/6000秒。
1/8000秒が出ないところは他社の最上位機種に譲りますが、必要十分なスペックです。

フィルムの巻き上げ速度は秒間2.5駒。
こちらもNikonやCanonの上位機種ほどではないですが、ハイアマチュアを主眼としたカメラとして考えると、不足はないといえるのではないでしょうか。

外装はマグネシウム製。
同時代のNikon F5Canon EOS-1Vをはじめ、当時は外装がエンジニアリングプラスチックから金属製へと回帰していた時代でした。
堅牢かつ高級感あふれる外装は、やはり、この機種がPENTAXのなかでも上位の機種として生を受けたことの証明であるといえます。

……とスペックを挙げ連ねただけだと、平凡な「中の上」のクラスのAFフィルム一眼レフにしか見えないかもしれません。
しかしMZ-Sの真髄は、スペック表に現れる部分ではありません。

操作性、ユーザーにとっての使い心地。
MZ-Sは、使えば使うほどにスムースに撮影することができる、「手にしないとわからない」カメラなのです。

ハイパーオペレーティングシステム

PENTAX MZ-S

PENTAX MZ-Sの最大の特徴。
そして、いまMZ-Sを中古で手に入れる理由。

それが「ハイパーオペレーティングシステム」という直感的な操作系です。

ハイパーオペレーティングシステムとは、プログラムAEと他のモードをシームレスに行き来できる操作体系のこと。

具体的に操作を見ていくと……

プログラムAEのとき

MZ-Sの電源を入れて、レンズの絞りリングを「A」に設定すると、プログラムAEになります。

絞りリングをAに

絞りとシャッター速度の双方が自動で設定されるモードです。

このプログラムAEを基本に、他のモードに移行していく形となります。

絞り優先AEへ移行

では、絞り優先AE(絞りを手動で設定するとシャッター速度が自動で決まる)にするには?

操作は簡単。

レンズの絞りリングを、「A」以外の数字に設定するだけです。
これで、手動で設定した絞りの値(例えばF1.4)が反映されることとなります。

絞りリングをA以外に

シャッター優先AEへ移行

次に、プログラムAEからシャッター優先AEに移行する方法です。

まず、絞りリングが「A」になっていることを前提とします。

シャッター優先AEにする場合には、ボディ上部、液晶の周りの電子ダイヤルを回して、シャッター速度を設定します。

電子ダイヤルを回す

これで、設定したシャッター速度(たとえば1/500秒)が反映され、絞り値が自動的に決まるシャッター優先AEとなります。

マニュアル撮影

それではマニュアル露出で撮影する場合には?

操作は至極簡単。

上で解説した「絞りをマニュアルにする」「シャッターをマニュアルにする」という操作を両方行えばよいのです。

これで、絞りとシャッター速度の双方を自分で決めるマニュアル露出に設定されます。

プログラムAEに戻る

最後に、元のプログラムAEに戻ってみましょう。

プログラムAEに戻るには、

・絞りリングを「A」位置に戻す
・ボディ前面のグリーンボタンを押す(シャッター速度がオートになる)

という操作を行います。

グリーンボタン

非常に単純明快です。

絞り優先AE・シャッター優先AEにも瞬時に復帰

マニュアル露出から、絞り優先AEやシャッター優先AEに戻る方法も上記と同様。

絞り優先AEに戻るには:絞りリングを「A位置にする」だけ。

シャッター優先AEに戻るには:グリーンボタンを押すだけ。

つまり、プログラムAEに戻るための操作を片方だけ行えばよいのです。

極めてMF時代のフィルムカメラ的な操作

じつはこの操作方法は、1970年代後半〜1980年代前半のフィルム一眼レフカメラのAE使用方法と基本的にはまったく同じです。

当時のマニュアルフォーカスのフィルム一眼レフカメラでは、
・絞り優先AEを使う:ボディ上面のシャッターダイヤルをAUTO位置にセット
・シャッター優先AEを使う:絞りリングをA位置にセット
・プログラムAEを使う:上記2つを同時にセット

という操作系が一般的でした。

MF時代のオート設定方法
例:PENTAX LXでは、シャッターダイヤルをAUTOMATICに設定すると絞り優先AEになった

PENTAX MZ-Sのハイパーオペレーティングシステムは、基本的には上記のシャッターダイヤルを電子ダイヤルに置き換えただけ

ただし、物理的な刻印があるダイヤルと異なり、無限に回転する電子ダイヤルでは「AUTO」位置がないので、シャッター速度をオートにするためのグリーンボタンを別に設けた、というわけなのです。

そもそもPENTAXのMZシリーズ自体、「マニュアルフォーカス時代の操作系を復活させたオートフォーカスカメラ」がコンセプトでした。
PENTAX MZ-5やMZ-3は、上記の1970〜1980年代のフィルム一眼レフカメラと全く同じ操作系をとっています。

つまり、より適切に表現するならば、MZ-Sのハイパーオペレーティングシステム操作系は、「MZ-3やMZ-5のシャッターダイヤルを電子ダイヤルにした」機構だといえるでしょう。

関連記事:MZ-3について詳しくはこちら

PENTAX(ペンタックス)MZ-3/アナログな操作感で味わうAFフィルム一眼レフ

ハイパーオペレーティングシステムのメリット

PENTAX MZ-Sのハイパーオペレーティングシステムのメリット。

それは、現代のデジタル一眼レフカメラの採用している、モードダイヤルとコマンドダイヤルの操作系と異なり、モード切替の手間なくシームレスにモードが移行できるということです。

プログラムを基本として、絞りリングを動かせば絞り優先AEに。
シャッターの電子ダイヤルを回せばシャッター優先AEに

撮影待機状態でカメラを構えたまま、モードダイヤルをわざわざ回す必要はないのです。

[pentaxb]

独特のルックス

PENTAX MZ-S

さて、PENTAX MZ-Sについて語るうえでは、その独特のデザインについても触れないわけにはいけないでしょう。

正面から見たときに、カメラの左右部が上に貼り出ている、肩を張ったようなデザイン。
これは、液晶画面を後ろ側に傾けて視認性を良くするためと、電子ダイヤルの操作性を良好にするため生まれたものです。

発売当時は賛否両論あり、「ウルトラマン」に登場する怪獣になぞらえて「ジャミラ」というニックネームでも呼ばれました。
しかし中古でしか手に入らなくなった現代では、このデザインも2000年代初頭ならではの他にないものとして魅力のひとつとなっているといえるのではないでしょうか?

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MZ-Sの開発に関する逸話

PENTAX MZ-Sの開発にあたっては、いくつかの紆余曲折がありました。
よく知られているものとしては……

幻のデジタル一眼レフ PENTAX K-1

じつはPENTAX MZ-Sは、PENTAX初のデジタル一眼レフのベースとして開発された機種でもありました。
その名も「PENTAX K-1」
600万画素のフルサイズCCDセンサー搭載機です。
2000年、ドイツのカメラ見本市、フォトキナに出展されましたが、当時としては高価格になりすぎるために開発が中止されてしまいました。

結局PENTAXのデジタル一眼レフは、2003年発売の*ist D(イスト・ディー)が初めての製品に。

PENTAX K-1という名のフラッグシップ機は2016年にやっと登場したことは知られていますが、もしこの時点でPENTAXがフルサイズデジタル一眼レフを投入していたら、カメラの歴史は変わっていたかもしれませんね。

なぜMZ-1ではないのか

PENTAXのオートフォーカス一眼レフカメラ、MZシリーズ。
上位機種はMZ-5、MZ-3と送り出されてきましたが、肝心の「MZ-1」はありません。
代わりにこのMZ-Sが登場したわけですが……。

MZ-1が発売されなかったのは、すでにデジタルの時代への移行が見据えられていたため
開発自体は行われていたようで、モックアップも存在しますが、結局、デジタル一眼レフを見据えて設計されたこのMZ-Sの開発へと方向転換したのです。

その後PENTAXはHOYA、RICOHへと相次いで身売りされ流転のブランドとなるわけですが、MZシリーズの時代、すでに厳しい状況にあったのでしょう。

もしMZ-1が登場していたら、同じく大衆機メーカーが出した名機であるα-9と並び立つ存在になっていたことが予想できるだけに、残念でなりません。

[pentaxb]

PENTAX MZ-Sで使える中古レンズ

最後に、MZ-Sでぜひ使いたい中古レンズを紹介します。

PENTAX Kマウントは、1975年以来の歴史を持つ豊富な中古レンズが使えるマウント。
ですが、レンズの世代によって機能が異なります。

絞りリングのあるPENTAX A・F・FA系統レンズ

FA43mm F1.9

PENTAX純正の、絞りリングに「A」位置のある中古レンズ
具体的にはAシリーズ、Fシリーズ、FAシリーズは、プログラムAE、絞り優先AE、シャッター優先AE、すべてのモードが使用可能です。

MZ-Sを使うなら、ぜひ43mmや31mmをはじめとしたFA Limitedレンズを使いたいところ。
2000年時点でのPENTAX最高峰の組み合わせを、中古で追体験してみませんか?

「A」位置のないレンズ

SMC-M 50mm F1.4

Kマウント初期のSMC PENTAXシリーズやSMCP-Mシリーズの中古レンズには、「A」位置がありません。
そのため、MZ-Sに装着すると自動的に絞りが手動設定となります

モードは絞り優先AEとマニュアルのみ使用可能です。

柔らかでポートレートに最適なPENTAXの名玉や、キレキレの描写のXR RIKENONなど魅力的な中古レンズばかり。
ぜひオールドレンズを中古で使ってみましょう。

絞りリングのないレンズ

2000年代前半以降、PENTAXも絞りリングを廃止し、ボディ側のダイヤルで操作する形式となりました。

MZ-Sでは、絞りリングのないレンズも装着可能。
ただし絞りを操作するための電子ダイヤルがないため、使用可能なモードは、プログラムAEかシャッター優先AEのみとなります。

現代レンズの性能をフィルムで楽しむのもオツなものです。

PENTAX Kマウントの中古オールドレンズについては、以下の記事で詳しく解説しています。
ぜひ中古レンズを購入する際のご参考にしてください。

ぜひ使ってみたいペンタックスKマウント中古レンズ名玉11選

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記憶に残るカメラ PENTAX MZ-S

PENTAX MZ-Sは、2000年代初頭の上位機種としては、スペック上は取り立てて特徴のない機種です。

しかし実際に手にすると印象は大きく変わります。
ハイパーオペレーティングシステムの操作感は、他に例を見ない快適なもの。

もちろん独特のデザインも愛らしいものです。

スペックという記録よりも、むしろ記憶に残るカメラ
それがMZ-S

ぜひPENTAX MZ-Sを中古で手に入れて、PENTAXがユーザーのことを想って生み出した「思想」を体感してみませんか?

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著者紹介: サンライズカメラ

サンライズカメラは、いまでは数少なくなってしまった「フィルムカメラ専門店」の使命として、フィルムカメラに関する情報を公開し続けています。 「こんな記事が読みたい」というご要望がありましたら、お気軽にFacebook、Twitter、お問い合わせフォームなどからご連絡ください。カメラ愛好家のみなさん、これからフィルムを始めたいみなさんとお話できることを楽しみに待っています。

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