Helios-44 58mm F2 安価なM42マウント旧ソ連製オールドレンズの代表格
今回は、ロシアレンズのなかでもメジャーなもののひとつ、「Helios-44 58mm F2」について解説します。
Helios-44 58mm F2は、旧ソ連で製造された一眼レフ用のオールドレンズ。
Helios-44-2やHelios-44Mなど、同じスペックでいくつかの種類が存在します。
マウントはM42マウントで、ミラーレス一眼カメラでマウントアダプターを介して簡単に使用可能です。
もちろん、ペンタックスSPをはじめとする日本製フィルム一眼レフカメラで用いることもできますよ。
さて、このHelios-44 58mm F2の最大の魅力が、廉価で写りが良いということ。
値段が安いのは大量生産された旧ソ連製レンズに共通すること。
そして、写りがよいのは、このレンズのルーツが高度な光学技術を誇るドイツにあることと関係しています。
単なる安価なレンズという域を超えて、味と美しさを両立した描写でオールドレンズの楽しみを広げてくれるHelios-44 58mm F2。
いったいどのようなレンズなのでしょうか?
特徴と使い方を解説するので、ぜひオールドレンズ選びの参考にしてくださいね!
目次
Helios-44 58mm F2
ロシアレンズの中でも入手しやすいレンズ。
それがHelios-44シリーズです。
オールドレンズ初心者にもおすすめのHelios-44シリーズとは、いったいどんなレンズなのでしょうか?
Helios-44というレンズの特徴
まず、ロシアンレンズである「Helios-44」(ヘリオス44)にはどんな特徴があるのでしょうか?
オールドレンズのなかでも人気が高い旧ソ連製のロシアンレンズ。
値段がとても廉価なのに、描写はとても上質。
ミラーレス一眼カメラが一般的になり、マウントアダプターを使ってオールドレンズを使うことがぐっと簡単になったので、以前に比べ、さらに多彩なロシアンレンズが注目されるようになりました。
そんなロシアンレンズには、いくつかのメジャーなレンズマウントがあります。
代表的なのはやはり、M42マウントとライカLマウント(L39マウント)でしょう。
今回解説するHelios-44シリーズは、M42マウント用のロシアンレンズ。
旧ソ連のフィルム一眼レフカメラ「ZENIT」シリーズのために大量生産され、ほぼ無尽蔵ではないかと思われる量が市場に出回っています。
最初に登場したのは1958年のことですが、ソ連崩壊後にも製造は続き、1990年代までは確実に製造が行われていました。
数が多いため中古価格はとても安価。
それだけに、これからオールドレンズを初めて手に入れようという方に最適なレンズだといえるでしょう。
名称であるHeliosは、「太陽」を意味するラテン語に由来します。
まさに、当時としては明るい開放値F2に相応しい名前です。
Heliosという名称のレンズはこのHelios-44以外にも存在しますが、オールドレンズの愛好家の間で単に「ヘリオス」とだけ言った場合には、このHelios-44を指すことが一般的です。
[oldlens]
オールドレンズならではの味のある描写
さて、そんなHelios-44シリーズの人気の秘密。
なんといっても「よく写る」ということでしょう。
焦点距離が少し長めの58mmですが、このレンズは大量生産された標準レンズ。
構成は4群6枚の典型的なダブルガウスタイプ。
一眼レフカメラ用の標準レンズとしては古い設計のため焦点距離が長くなっている以外は、奇をてらった部分はなく、構成を見るだけで、「間違いのない描写」をしてくれることがわかります。
標準レンズはカメラとセットで売られ、もっとも幅広く、多くの人に使われるレンズ。
それだけに、その性能が悪いはずがありません。
絞り込めばしっかり写る
柔らかいボケ味、「ぐるぐるボケ」も楽しめる?
さて、少し絞ればかっちりと高い実用性を発揮してくれるのは当然のこと。
それを踏まえたうえで、このHelios-44はオールドレンズならではの魅力を持っています。
このレンズの魅力は、なんといってもボケ味なのです。
まず、通常のボケ味はとても柔らかく、メインの被写体をはっきりと際立たせてくれるもの。
普通に使う分には、ポートレートを撮っても、花や木を撮っても、そつなく絞り開放付近での撮影をこなしてくれるでしょう。
ところが。
背景に点状の「光」を入れると、このレンズはにわかに本領を発揮し始めます。
そう「ぐるぐるボケ」です。
Helios-44がオールドレンズのなかでも有名な一本となったのは、この「ぐるぐるボケ」のため。
木漏れ日や、照明などの点光源を画面に入れることで、画面周辺部ボケがド派手になり、他のレンズとはまったく異なる、個性的な写真を撮ることができるのです。
非点収差
さて、この「ぐるぐるボケ」はなぜ生じるのでしょうか?
原因は「非点収差」。
非点収差(ひてんしゅうさ)とは、レンズを通った光が完全に同じ点に集まらず、像を結ぶ位置がばらけること。
このHelios-44は古い時代の一眼レフ用レンズのため、この非点収差が補正しきれておらず、絞り開放に近い位置では画面周辺部の描写が暴れることになるのです。
製造当時は設計上の限界だったぐるぐるボケ=非点収差ですが、オールドレンズとしては味わいを増してくれる好ましいもの。
現代レンズではけっして味わえない、意図せず生み出した印象的な描写こそ、このHelios-44シリーズの魅力なのです。
Helios-44でぐるぐるボケを味わうには
では、具体的にはHelios-44 58mm F2でぐるぐるボケを体験するにはどうすればよいのでしょうか?
まずは、絞りを開放にすること。
レンズについている絞りリングを「F2」に合わせましょう。
また、背景を大きくぼかすなら、被写体は近距離のほうがベター。
人を撮るならバストアップ(胸から上を撮影)の構図にする。
花を撮るならできるだけ近寄る。
そうすることで、よりボケは派手になります。
(近寄るとピンボケの可能性も増えるので注意)
絞り値:F2
Heliosの最短撮影距離は50cm。
ミラーレス一眼カメラ付属のズームレンズよりもぐっと寄って撮影することができますよ。
最後に、背景の処理。
背景は、光が点状にちりばめられているような状態にするとベストです。
たとえば草木の間から光が漏れている。
夜の街で電球が光っている。
そんな状況で撮影をすることで、Helios-44のぐるぐるボケの描写を最大限に引き出すことができますよ。
水面の輝きも独特の描写に
またもちろん、普通に背景をぼかしたときも、非常に味のあるボケを楽しめますよ。
いっぽう状況によっては、とても癖のあるボケも出てきます。
[oldlens]
Helios-44シリーズはドイツに源流を持つレンズ
このHelios-44シリーズは、そもそもドイツで生まれたレンズ構成を受け継いでいます。
元となったのは、カール・ツァイス・イエナ(Carl Zeiss Jena)のビオター(Biotar) 58mm F2。
カール・ツァイスといっても、東ドイツのほうのツァイスです。
じつは東ドイツは、戦後一眼レフカメラの開発で世界をリードした国。
そもそも、M42マウント自体が、1940年代に東ドイツで誕生したものなのです。
Biotar 58mm F2は、構成的には4群6枚のダブルガウスタイプという非常にオーソドックスなもの。
このBiotarという名称は、東独カール・ツァイス・イエナがダブルガウスタイプのレンズに付けたブランド名で、西独のカール・ツァイスでいえば、名玉と名高い「プラナー」(Planar)に相当するものなのです。
写りが良くないはずがありません。
初期設計が1958年と古いにもかかわらず、1990年代まで製造されたのも、もともとの素性がよかったからこそ。
旧ソ連をはじめ旧共産圏の製品は、冷戦が終わることには時代錯誤なものも増えていたのも事実。
カメラレンズもメカニズム的には日本製に大きく遅れていましたが、こと描写力については、けっして日本製レンズにひけをとるものではありません。
世界一のレンズメーカー、カール・ツァイス。
東西に分かれてはいましたが、東ドイツのツァイスも非常に上質な描写を味わえるレンズを製造していました。
Helios-44なら、そんなツァイスの血筋を引き継いだ味わいを、とても安価に楽しむことが可能。
ツァイスの残り香をぜひミラーレス一眼カメラで楽しんでみませんか?
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Helios-44のバリエーション
長期間に渡って製造が行われたため、このHelios-44にはいくつかのバリエーションがあります。
重要なチェックポイントは、レンズマウントと絞りの動作。
とくに、絞りが手動絞りか、手動切替のできる自動絞りか、自動絞りオンリーかでマウントアダプターでの使用感が変わってきます。
なお描写については、どれもレンズ構成自体は同じなので似通っています。
1.Helios-44 58mm F2
無印のHelios-44です。
絞りは手動絞り。
現在のミラーレス一眼カメラでマウントアダプターを介して使うには、逆に使用しやすくおすすめです。
注意したいのがレンズマウント。
M42マウント、ZENIT用M39マウント、Startマウントの3種類があります。
おすすめなのはM42マウント
M42マウントのものはとくに問題なくマウントアダプターで使用可能。
これから中古でHelios-44無印を手に入れるなら、M42がおすすめです。
ZENIT用M39マウントはひと工夫必要
ZENIT用M39マウントは、旧ソ連の初期のフィルム一眼レフカメラ、ZENITの独自規格マウント用レンズ。
マウント形状はライカLマウントと同じ39mmねじ切りなのですが、フランジバックがM42マウントとほぼ同様となります。
リング状のM42-L39アダプターが数百円程度で入手可能なので、こちらも簡単に使えます。
ZENIT用M39マウントのヘリオスと、変換アダプター(左)
M42-L39アダプターを取り付けたところ
上記以外のマウントはおすすめできない
Startマウントは、1958年に登場した旧ソ連の一眼レフカメラ「Start」用の独自バヨネットマウント。
使用が難しいのでおすすめできません。
なお、この初代Helios-44は外装デザインに
銀鏡筒
ゼブラ(黒と銀)
黒
があります。
次以降紹介するモデルはすべてM42マウントなので、この無印のような難しさはありません。
2.Helios-44-2 58mm F2
もっともメジャーなHeliosです。
手動絞りでミラーレス一眼カメラとの相性抜群。
ぐるぐるボケも楽しめます。
[oldlens]
3.Helios-44M 58mm F2
Helios-44M-4
Helios-44M 58mm F2では、自動絞りが装備されました。
マウント面に自動絞りピンがある
PENTAXのスーパータクマー等同様、スイッチで自動絞りと手動絞りを切替可能。
ミラーレス一眼カメラでマウントアダプターで使用するときには手動絞りに。
ペンタックスSPなどのフィルム一眼レフカメラに取り付けてみたいとなったときにも、自動絞りで撮影することが可能となっています。
絞りリングの位置が、手動絞りのHeliosの「レンズ先端」から、こちらは「レンズ根本」に移動しています。
他の一眼レフ用オールドレンズと同様の位置なので、人によってはこちらのほうが使用性がよいと感じることもあるのではないでしょうか。
手動絞り切り替えができないモデル
Helios-44Mシリーズは、Helios-44M-2、Helios-44M-3のようにモデルチェンジが行われ、枝番がついたモデルがいくつも存在しています。
(上記の写真のモデルも、切り替えがないモデルです)
注意したいのがHelios-44M-4以降のモデル。
これ以降、絞りの自動・手動の切り替えが省略されてしまっているのです。
レンズマウント側に切り替えスイッチがない
フィルム一眼レフカメラでは問題ないですが、ミラーレス一眼カメラでの使用時には、そのままでは絞りを絞り込むことができません。
もしHelios-44M-4以降のモデルを使うときには「絞り込みピンの押し込み」機能がついたマウントアダプターを選ぶようにしましょう。
マルチコートのヘリオス
1980年代以降、コーティングがそれまでのモノコートからマルチコートに変更された個体が現れます。
レンズ銘板がMC Helios-44となっているので判別できます。
廉価な明るいオールドレンズならHelios-44 58mm F2
このように、Helios-44 58mm F2は、廉価なのに個性的な描写が楽しめるオールドレンズ。
ミラーレス一眼カメラで初めてマウントアダプターで撮影したいという方にもうってつけです。
中古でも入手しやすいので、ぜひあなたもHeliosの味わいを楽しんでみませんか?
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