PENTAX(ペンタックス)SP・SPOTMATIC/60年代フィルム一眼レフカメラのスタンダード
ASAHI PENTAX SPは1964年に旭光学(ペンタックス)が発売した35mm一眼レフカメラ。
全世界で400万台以上を売り上げたというベストセラー機です。
露出計はまだ普及の途上にあった60年代。
PENTAX SPは、安価な機種ながら絞り込み測光のTTL露出計を内蔵することで、露出計内蔵一眼レフを一挙に一般的な存在としたのです。
これから中古を手に入れてPENTAX SPを使うことは、60年代のカメラを全身で感じること。
絞り込み測光は使用時に多少の癖がありますが、全体的にスタンダードな操作系となっているため、初めての中古フィルムカメラに選ぶのもおすすめです。
クラシックなカメラとモダンなカメラの中間にあるカメラ、PENTAX SPとは、いったいどのようなカメラなのでしょうか?
中古フィルムカメラ専門店、サンライズカメラのスタッフが紹介します!
目次
PENTAX SP
まずはASAHI PENTAX SPの概要について見ていきましょう。
「露出計内蔵一眼レフ」PENTAX SPの登場
1960年。
ドイツの写真業界見本市「フォトキナ」で、PENTAX SPは鮮烈なデビューを飾りました。
大きな特徴は、カメラの内部に「TTL露出計」を内蔵していること。
TTL(スルー・ザ・レンズ)露出計とは、撮影に用いるレンズを通った光の量を計測する露出計を指します。
それまでの内蔵露出計は、レンズとは別に専用の測光部を持っていました。
ところが、その方式ではマクロ撮影時などに正確な露出値を得ることができず、マクロや望遠に強い一眼レフのメリットを完全に活かすことができなかったのです。
1960年のPENTAX SP試作機では、画面中央部の狭い範囲を測光する「スポット測光」を採用。
SPというネーミングも、スポット測光に由来したものでした。
しかし発売された量産品では、より初心者でも使いやすい「平均測光」(画面全体の光の量を計測する)に変更されたのでした。
SPという名前と、ボディ肩に刻印されているSPOTMATICの文字はその名残です。
PENTAX SPの特徴・スペック
それでは、PENTAX SPはどんなスペックを持っているのでしょうか。
中古購入の参考になれば幸いです。
形式 | 35mm一眼レフカメラ |
シャッター速度 | B、1秒〜1/1000秒 横走布幕フォーカルプレーンシャッター |
露出計 | TTL絞り込み平均測光 |
ファインダー | 視野率約93% 倍率約0.88倍 |
レンズマウント | M42スクリューマウント |
対応レンズ | 各種M42マウントレンズ 開放測光対応のフジノン等特殊なレンズも使用可 |
電池 | H-B型水銀電池 ※販売終了品のためボタン電池用アダプター(Amazon)にて代替可能 |
発売年 | 1964年 |
機構的には、非常にスタンダードな機械式フィルム一眼レフカメラだといえるでしょう。
操作方法はいたって標準的で、このカメラを使うことができれば、他の中古マニュアルフィルムカメラも差し支えなく使用可能です。
シャッター速度はB、1〜1/1000秒。
シャッターは布幕横走りの一軸不回転式です。
巻き上げはレバー式で、分割巻き上げも可能です。
時代を反映してボディ上部のアクセサリーシューは標準では取り付けられておらず、ファインダー窓に固定する専用アクセサリの使用が必要です。
(アクセサリーシューは数百円で簡単に中古が手に入ります)
レンズマウントはM42スクリューマウント(ねじマウント)で、PENTAXのSuper Takumarをはじめ、さまざまな中古オールドレンズが使用可能です。
というよりも、このPENTAX SPこそがM42マウントの代表機種。
SPをはじめとするPENTAXの一眼レフは、全世界的に普及したことでM42マウント規格のデファクトスタンダードとなっていったのです。
スーパータクマーとM42マウントレンズについては、以下の記事も併せてご覧ください。
TTL絞り込み測光
PENTAX SPに搭載されているのは、TTL絞り込み測光の露出計。
前述したように測光範囲は平均測光です。
絞り込み測光とは、測光時に実際の絞りまで絞り込んで光量を計測する形式の露出計。
ボディ左側の露出計スイッチを押し下げることで電源がONになり、シャッターを切るとスイッチが自動で元の位置に戻り、露出計の電源もOFFとなります。
「SW」と書いてある部品が露出計スイッチ
現在のカメラはほぼすべてがTTL開放測光となっていますが、当時、M42マウントのカメラでTTL測光を実現するためには絞り込み測光のほうが容易な方法でした。
測光時にファインダーが暗くなるという欠点はありますが、構造が簡単なので、機構が故障する心配も少ないです。
事実、中古のPENTAX SPの露出計も、受光素子のCdSの劣化の可能性こそあれ、動作そのものは問題ないことが多いです。
1960年代には開放測光と絞り込み測光のどちらが優れているかという論争もあったといわれています。
結局は1970年代以降開放測光が主流となり、過去の方式となってしまいましたが、PENTAX SPを中古で使うことでクラシカルな方式を追体験することができますよ。
PENTAX SPの電池
PENTAX SPを中古で使うときに注意が必要なのが電池です。
当時指定されていたのは東芝製、ナショナル製H-B型電池や米国製マロリーRM-400R電池ですが、現在では生産されていません。
また、同じ大きさのボタン電池も存在しないため、何らかの代用が必要です。
現在PENTAX SPを使う場合、通常はボタン電池LR41をアダプターを介して使用するか、ゴムリングを介して使用することになります。
厳密には水銀電池H-BとLR41は電圧が微妙に異なるのですが、その差を吸収する機構が露出系回路に備わっているため、実用上は問題ありません。
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PENTAX SP四方山話
全世界的にベストセラーとなったPENTAX SP。
このカメラにまつわる逸話は数限りなく存在します。
ここではそんな四方山話や、興味深い豆知識を紹介します。
音楽アーティストが買い求めたカメラ
PENTAX SPは、あまりの人気に一時は世界的に品薄にもなったといわれています。
さらに、輸出先よりも安価に購入できることから、音楽アーティストが来日公演時にこぞって買い求めたといわれています。
なかでも有名なのがビートルズ。
1966年のビートルズ武道館公演はあまりに有名ですが、ジョン・レノンやポール・マッカートニーもPENTAX SPを日本で買い求めたという噂がまことしやかに囁かれているのです。
実際、日本で購入したものかわかりませんが、PENTAX SPを持ったポール・マッカートニーの写真も公開されています。
また、伝説の指揮者カラヤンがベルリン・フィルと来日したときにも、競ってペンタックスSPを買い求めたといいます。
PENTAX SPの最初期形はダイキャストが違う
400万台以上売れたと言われているPENTAX SP。
実は最初期形のPENTAX SPは量産型と微妙に構造が異なり、中古も珍重されています。
その違いとは、ボディ上部のカバーのネジ位置の違い。
ネジ位置が違うということは、ダイキャスト製のフレームも異なるということです。
おそらく、量産初期に生じた問題点を改善するうちに、ダイキャストフレーム含め全体的な構造がブラッシュアップされていったのでしょう。
わかりやすいポイントとして、初期型SPでは、カメラを構えたとき左側になる側面に、量産型にはないネジ穴が存在しています。
また露出計スイッチも異なり、初期型はサイズが小型。
スイッチの刻印が、量産型ではスイッチにあるのに対し、初期型ではボディ側の金属部品にも刻印されています。
PENTAX SPのシリアルナンバーは1000000(100万)からはじまります。
具体的にどこまでが最初期形なのかという研究は未だ見たことがないのですが、1020000近くまで、この初期型PENTAX SPは存在しているのではないでしょうか。
状態さえよければ、中古で探すときに意識して初期型を選んでみるのも面白いでしょう。
PENTAX SP 中古購入・状態チェックのポイント
それでは、PENTAX SPを中古で探すときにはどんなことに気をつけたらよいのでしょうか?
また、押し入れから出てくることが非常に多いカメラでもありますが、どんな部分をチェックしたらよいのでしょうか。
電池室の液漏れに注意
まず、PENTAX SPにもっとも多い故障が、電池の液漏れ。
ボディ下面のコインで回す電池室が緑青を吹いていたら、確実に液漏れしています。
おそらく液漏れを起こし修理された電池蓋
磨けば復活することも多いですが、そもそもPENTAX SPの場合、液漏れを起こした時点で中古の扱いはジャンクになってしまうことがほとんど。
もし中古を保証付きで購入する場合には、ほぼこの部分は店舗によってチェックされていると思います。
なお、家族が使っていた古いカメラが押し入れから出てきたようなときには、ほぼ液漏れを起こしていると思って間違いありません。
電池蓋がなんとか回った場合、まずは端子を磨いて、適当なスペーサーを入れて電池を入れてみましょう。
PENTAX SPの露出計は非常にタフなので、案外動くことが多いです。
ミラーの精度に注意
これは筆者の失敗談ですが、ジャンクの中古で手に入れたPENTAX SPで撮影したところ、ミラーにガタがあり、撮影した写真のピントがずれていたことがありました。
こちらも保証付きの中古ではほぼ問題ありませんが、もし家にあった古いSPを使うときには、一応、気をつけましょう。
セルフタイマーは使わない
これは他の中古フィルムカメラにも共通しますが、セルフタイマーは動かさないようにしましょう。
問題がないことも多いですが、もし内部が劣化していた場合、シャッターや巻き上げのスタックの原因となります。
同時期のライバル大衆機関連記事
ペンタックスSPと同時代の、同価格帯のライバル機種関連記事です。
古さと新しさが同居するカメラ、PENTAX SP
PENTAX SPは、クラシックカメラからモダンなカメラに移行する只中に製造された機種。
その後のマニュアル機種に通じる操作系と、クラシカルな絞り込み測光が同居する佇まいは独特のものです。
製造数が多いため入手は非常に容易で、中古の値段もとても安価。
フィルムカメラへの入門にもおすすめです。
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更新履歴
2022年8月2日
スペック表内の電池の項にMR9と記載されていた点をH-B型に訂正。
(本文中はH-Bと記述)
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